3月16日に起こった福島県沖地震で、震度6強の激震に見舞われた福島県相馬市。被害が大きかったのは市の中心部と、太平洋に面した松川浦地区だ。

 松川浦は青海苔(のり)の養殖が盛んな漁師町である。と同時に観光名所でもあった。福島県で唯一の潟湖になっていて、静かな海に大小の島が浮かぶ。古くは万葉集にも登場したことがあり、その風光明媚な景観と魚料理を目当てに訪れる人が多かった。旅館組合所属の宿泊施設も24軒あった。

風光明媚な松川浦

 だが、3月16日深夜に発生した地震で、松川浦は家という家の瓦が落ちるほど被災した。旅館も軒並み休業状態に陥り、再建へのハードルは高い。

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 それというのも、約1年前の2021年2月にも震度6強の地震に直撃され、なんとか資金を工面して修繕したばかりだったからだ。「もうこれ以上の借金はできない」と悲鳴が上がる。

これ以上崩落しないよう、型枠で押さえてある状態(丸三旅館)

外壁はバックリとはがれ落ち、内部の鉄骨がむき出しに…「雨垂れというより、滝ですよ」

「雨垂れというより、滝ですよ。ひと晩のうちに4回もたらいの水を捨てなければならないんだから」

 松川浦で「丸三旅館」を経営する管野正三さん(61)がため息をつく。案内された厨房には、天井から水が流れ落ちた太い痕跡が残っていた。

「これからさらに厳しくなる」と話す管野正三さん

 床にはモッコリとした盛り上がりがある。「うちは二つの建物の合築です。地震で一方が押されて、もう一方を圧迫したのです」と説明が続く。

 4階建て旅館の最上階に向かう。屋外を見ると、眼下の屋根にサッシの窓が落ちているのが見えた。 

「3階の窓が吹き飛んだのです。ほら、あれも見て下さいよ」

 指さした先では、外壁がバックリとはがれ落ち、内部の鉄骨がむき出しになっていた。雨はここから降り込み放題になっている。屋内の雨垂れが滝のようになってしまう理由だ。

壁の損壊(丸三旅館)
雨垂れというより、滝のようになり、ひと晩にたらいの水を4回捨てる(丸三旅館)

 階段には、壁がこれ以上崩落しないよう、木製の型枠で応急の補強がしてあった。歪んでいるので、窓は開かないし、閉まらない。

 こうした被害は、どの旅館も似たような状態だ。地元では「4階建ての建築物が最も酷く損壊し、上層階ほど壊れ方が激しかった」と言われている。管野さんの旅館は、まさにこれに当たる。

柱の部分が損壊している(丸三旅館)
屋内でも壁がはがれ落ち、鉄骨が見えていた(丸三旅館)

 揺れは「縦に突き上げられた後、激しく横に揺さぶられて、ぐるぐるかき回されるようだった」と話す人もいる。そうした振れ幅の大きかった4階や3階が、千切られるようにして破壊されたのかもしれない。