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 さらに悪いことに、高台にある自宅まで被災した。「地面が崩れかけているので解体を急がなければ、2次災害を引き起しかねません」。

 発災から1カ月が経過しても、「もう、どうしていいか」と体に力が入らない様子だった。

 あれから3ヵ月。再び訪れると、「状況は変わっていません」と元気がない。

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「自宅は公費解体を待っているのですが、まだ着手されていません。これ以上崩れたら、下の人の家を押しつぶしてしまいます」と気が気ではない。このため、地面に杭を打って家をつなぐなどしているのだという。

倒壊した建築物がまだそのままになっていた。「危ないから早く取り除くように市に伝えて」と住民は語る
斜めになったアンテナ(相馬市松川浦地区)

修繕費用はなく、借金も出来ず、廃業さえ…

 さらにひどい話を聞いた。

 賀都屋の被害で最も深刻だったのは建物の傾きだ。エレベーターのある側が沈んだらしく、外から見ても分かるほどになっている。どれくらい傾いているのかを調べてもらおうとした時のことだ。「部屋に入った調査員が『気持ち悪くなって1分といられない』と飛び出してきたのです」と佐藤さんが語る。人間の感覚に極めて悪影響を与える傾きになっているのではなかろうか。

賀都屋。やや右に傾いている(相馬市松川浦地区)

 これを、どうするか。

「高速道路の巨大コンクリート構造物を引っ張り上げるのと同じ方法だと、旅館の傾きも直せるらしいのですが、作業費用が払えるような額ではありません。建て直しも、ぎりぎりまで借金をしているので無理。じゃあ廃業するか。ところが、今ここでやめたら、昨年の修繕で補助された額を返さなければいけないそうなのです」

窓が割れていた(相馬市松川浦地区)

 補助を受けた建物は、耐用年数によって事業を続けなければならない期間が決められる。それより前に事業をやめたら返還しなければならないと、行政関係者に指摘されたらしい。

 しかし、補助金返還は制度の悪用防止のためだろう。天災という不可抗力にも当てはまるのか。

 実は、#1で取り上げた山形屋商店の渡辺和夫さん(52)も、廃業や休業を視野に入れているので、同じような状態に直面した。昨年の地震で壊れた製造機械の修繕費に補助を受ける予定にしていたのだが、「いざ廃業するという時になって『返還しろ』と言われたら、計画がおかしくなってさらにダメージを受けてしまいます。そこで県庁には今回の被災後、『前回の地震の補助金は辞退します』と申し出ました」と話す。これでは弱り目に祟り目だ。

ブルーシートが痛々しい(相馬市松川浦地区)

修繕には建て直しと同額の金額が

 さらに別の旅館。

 4階建ての「かんのや」。やはり発災から1ヵ月が経過した時に、経営者の管野拓雄さん(63)に案内してもらった。