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「もう瓦礫を拾う力さえない」修繕費用なし、借金も廃業もできない…2022年福島県沖地震、被災旅館のリアル

福島県沖地震#3

2022/07/16

genre : ニュース, 社会

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「なのに毎月50万~60万円の支出が必要です。実は、11年前に起きた東日本大震災の修繕費の借金が『5年間は返済据置き、その後の10年間で返済する』という仕組みなので、まだ残っているのです。加えて、昨年の暮れにはコロナ禍で資金がショートしかねない状態に陥り、2000万円の融資を受けました。この2000万円については、いよいよ困った時の最後の手段だと考えていたのに、既に借金返済や生活費に充てざるを得なくなっています」と苦しげに語る。

護岸とガードレールが松川浦に落ちた

「24軒の旅館の事情も様々です。昨年の地震の修繕にこれから着手する予定だった旅館、修繕中に被災した旅館、修繕直後にまた壊れた旅館。現在5~6軒が営業を再開していますが、下手をすると再建に1~2年かかる旅館があるかもしれません。それまで皆の体力が持つかどうか。生活費を捻出できるかどうか」と心配する。

相馬市松川浦地区
土を押さえていたコンクリートが損壊し、敷地全体が崩落しそうだ(相馬市松川浦地区)

被災した箇所を修繕し、工事業者から引き渡しを受けて…4日後の被災

 他の旅館はどのような状態なのか。

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 やはり4階建ての「賀都(かど)屋」。女将の佐藤裕美さん(53歳)に「どのような被害があったのですか」と尋ねた時のことが忘れられない。

発災から1ヵ月後のことだ。

「どんな被害、と聞かれても……」。そう口ごもったきり、30秒ほど黙り込んだ。あまりの事態に言葉が出なかったのだ。

「昨年の地震で被災した箇所を修理し、工事業者から引き渡しを受けて4日後の被災でした。部屋の掃除をして、さあこれから予約を取るぞと張り切っていた矢先に」。話しているうちに涙があふれてくる。

屋根一面にブルーシートが(相馬市松川浦地区)

「自宅は早く公費解体を待っているのですが、まだ着手されていません。これ以上崩れたら…」

 新型コロナウイルス感染症が拡大してからの2年間は、積極的に客を取ってこなかった。それでも、修繕には「ぎりぎりの限度まで借金しました」と言う。これには当時の補助制度に問題がある。「原状復旧」しか補助対象にならなかったのである

命綱を付けて屋根で作業(相馬市松川浦地区)

 賀都屋は、風呂が昔ながらのタイル張りで被災しやすく、同じように直せばまた地震で壊れてしまいかねなかった。そこで別仕様で直すと補助対象外になり、丸ごと自己資金になった。そうした自費工事がかさんで借金が膨らんだのだ。ところが今回、直した箇所まで全て損壊した。それほど揺れが激しかった証拠だろう。