でも、私はそれを恥ずかしいと思わなかった。これが私の人生の勝因だなと思うわけ。一等はノート2冊と鉛筆2本。すんごい貧しい賞品だけど、一等は一等だから、それをもらったとき、私はにんまり笑ったの。別にいいじゃない、と。それがのちのちまで頭に残ってる。
「人と自分を比べるなんてはしたない」
私が恥ずかしいと思わなかったのは、親の教育だと思う。親が子どもに目を向けてる余裕がなかったから、子どもも恥ずかしいと思わないように育ったし、そんな時代だから私は生きられたんだと思うの。もし今のように目を向けられて、「これじゃダメ」「そうじゃない」と言われてたら、とっくの昔に私は卑屈になってたと思う。
私は、「それは違うでしょ」って言われた記憶がないのよ。私が何か間違えたとしても、「それは違う」と言わずに、「たいしたもんだね、この子は」と言って笑ってる(笑)。友達の家に遊びに行ったときは、その頃やっと出始めたビニールを持って泊まりに行くわけ。おねしょするから。それぐらい平気なのよ。隠すとか、そういうことじゃないの。うちは毎朝毎朝、布団を干すし。
そうやって他人と比較して、卑屈になるようなことはなかったから、それはやっぱり、親がえらかったと思うのよ。
――私の祖母も「誰かと自分を比べるような、はしたないことはダメ」と言ってましたが、その一言は、不登校だった私を支えてくれました。
日本の女の人って、昔はすごく優れてたと思うんです。お坊さんでもなんでもない、そこらにいるおばあさんでさえ、「人と自分を比べるなんてはしたない」って言葉を発する土壌があったのよ。
基本だけはちゃんとしとけば少々のことはいい
――樹木さんが親になられてからも「叱らない」というのは気をつけていましたか?
まったく干渉しません。大事にしたのは食べることだけ。そこらで間に合わせるんじゃなくて、どんなにまずくてもご飯とみそ汁と、うちでつくって食べさせることだけはやってました。でもそれだけ。
――お孫さんがいらっしゃるんですよね?
3人もいるんですよ。よく親のほうが鍛えられてます(笑)。
娘にも言ってるのが、「そのうちちゃんと自分で挫折するよ」ってこと。周りはやきもきするけどね。「人を殺してなんで悪いの」とまではなっていないし、基本だけはちゃんとしとけば少々のことはいいのよ。あれもこれも親が手を出して、あとから「たいへんだったんだから」と言うよりは、本人に任せていくほうがいいの。