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是枝監督がモデルにした、韓国の「赤ちゃんポスト」とは

 ところで、是枝監督はどうしてこのベイビーボックスという素材を、赤ちゃんポストがある日本ではなく、韓国で撮ったのだろうか。是枝監督はこう答えている。

「この映画は日本の話を前提に書いて実現できなかったため韓国で撮った作品ではありません。最初の3枚のA4用紙のプロット(物語の要約)から韓国の俳優の名前がありました。韓国は養子縁組について広く知られていて、日本よりも養子制度が定着している印象がありました。この素材で映画を撮るなら日本より韓国のほうがふさわしいのではないかと思ったんです」(スポーツ韓国、7月3日)

 韓国では朝鮮戦争後の混乱時期から養子縁組が盛んになった。一時は年に数千件にも上った養子縁組は2012年頃から減少し、2020年はコロナ禍の影響などもあり492件となっている。ちなみに日本では同年の特別養子縁組件数は693人だった。

 最後に、是枝監督がモデルにしたベイビーボックスについて触れよう。ベイビーボックスは実際にソウル市内と郊外にひとつずつある。広く知られているのはソウル市内の「ジュサラン共同体教会」の李鍾洛牧師が2009年に始めたベイビーボックスだ。07年春、魚箱に入れられたダウン症の赤ちゃんが教会の門の前に置かれたことがきっかけで作られた。

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ベイビーボックスへの入り口。「ベイビーボックスを使わずに、まず相談を受けることをおすすめします」というメッセージが書かれている(筆者提供)
ベイビーボックスの内側(筆者提供)

 同教会では、09年から今年4月末まで2102人の子どもを保護している。熊本県の慈恵病院が07年から運営している「赤ちゃんポスト」ではこの5月まで161人が保護されたというから韓国ベイビーボックスを使う人が桁違いに多いことが分かる。