自分はいま心理的柔軟性を失っていないかと常に問う姿勢を持つことで、偏見から解放されやすくなります。よくないのは偏りがあることではなく、心理的ガッチガチになることなのです。
視座は座ってみないとわからない
「心理的ガッチガチ」をゆるめるヒントがもう1つあります。「視座」です。
視座とは「どこから見るか」のことでした。たとえ視点が一緒でも、視座が違えば価値や意味の解釈が変わってきます。世の中の「話が通じない」「理解し合えない」ことの多くは、視座の違いが原因だと思われます。
たとえば、「お客さんの立場(視座)になって考えよう」とスローガンを唱えてもうまくいかない。そんなことが至るところで起こっています。
うまくいかない理由は、「お客さん視座」ではなく「売り手視座」のまま、お客さんの視点をただ妄想しているだけなのでズレている、というワナにハマっているからです。
特に「自社の商品を買ったことがない人」。業務用の商品などは、自分がお客さんとして買ったことがないケースが多そうですが、それだと「お客さんの視座にはなりきれない」ということが起きやすくなります。
上司と部下の関係でも同じで、相手の視座がわからないと、相手の気持ちを想像してもうまくいきません。
エスペリオンユース入団試験(セレクション)で、最終試験のシーン。
セレクション組(中3)とユースBチーム(高1中心)で紅白戦が行われます。
実力差のハンデとして、福田監督はユース組に対して「ある制約条件」を課します。それは「未経験のポジションでプレーすること。その上で内容で圧倒すること」でした。
紅白戦が終わったあと、福田監督との面接で、アシトがなんのためにあれをやったのか尋ねます。福田はこう答えます(2巻18話)。
「攻撃の選手が守備のことを、守備の選手が攻撃のことを、こんなに真剣に考えた1週間はなかったろう。控えのあいつらには重要な訓練になったろうよ」
やったことのないポジション(視座)を体験する機会にすることで、視座の相互理解を進める。そのために、制約条件を設定したわけです。視座を変えると、違う視野が見えるようになり、自分の偏見に気づくきっかけが生まれます。
思った以上に、「視座は座ってみないとわからない」もの。ひたすら実体験が大事なのです。
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