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《特別支援学級って最先端》「大勢の前で発表するのは大人でも難しいので…」先生が“成功体験”と“自分で選ぶこと”を大切にする現実的な理由

《特別支援学級って最先端》「大勢の前で発表するのは大人でも難しいので…」先生が“成功体験”と“自分で選ぶこと”を大切にする現実的な理由

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「成功体験を支えているのは失敗してもめげずに試行錯誤を繰り返すこと」

――成功体験ということをかなり意識されているんですね。

荒川校長 特別支援学級の子はこれまでの人生で、他人に認められる経験が少ないことが多いんです。でも成功体験や人に認められる経験を積んでいくことで、子供たちは自信を持てるようになる。そして成功体験を支えているのは失敗してもめげずに試行錯誤を繰り返すことなので、子供たちにはどんどん失敗していいんだよと伝えています。失敗を乗り越えて新しいやり方を考え成功に結びつける経験を積むことで、失敗することへの恐怖感も小さくなりますからね。

荒川校長 ©文藝春秋

――今の自分ができないことでも、他の方法を勉強すればできるようになるのは、まさに教育そのものという感じがします。

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森村先生 本当にそう思います。以前あおば学級を卒業した子の中に「場面かん黙」と言って、特定の状況でうまく話せなくなってしまう子がいました。彼女は人に対して恐怖感があって体調や気持ちを聞かれてもなかなか答えられなかったのですが、「絵なら表現できる」と言って「元気」「疲れている」「悲しい」など自分の状態を描いた“体調気持ちっぷ”という絵カードを作りました。しかも自分で使うだけでなく保健室用にも作ってくれて、他の話すのが苦手な子や通常学級の子たちも、保健室で“体調気持ちっぷ”を指差して「今の気持ちはこれ」と伝えられるようになったんです。

 絵カードを作った本人も、自分の描いた絵が人の役に立つ成功体験を経て、より絵を描くのが好きになっていきました。

保健室に貼られた“体調気持ちっぷ”は通常級の子供たちにも好評 ©文藝春秋

「もしこの子が6年間しゃべることができずに小学校生活を終えていたら……」

――特別支援学級と聞くとつい支援を受ける子供たちと考えそうになりますが、全然違うんですね。

荒川校長 その子は高学年からあおば学級に通いはじめたのですが低学年までいた別の学校ではほとんど喋ったことがなかったそうです。でもあおば学級に来て自信を取り戻したことで、6年生になった頃にはすっかりおしゃべりになっていました。その子はあおば学級に来る前に、こんな手紙を学校に送ってくれていました。

場面かん黙の児童が入級前にあおば学級に送ってくれた手紙 ©文藝春秋

<校長先生へ あおばに来る●●(名前)です。私は、学校で人数が多くてつらくて学校に行きたくなかったです。人前で発表するのは人目が怖くて苦手です。あおばならがんばれそうなので三小に行きます。よろしくお願いします>

荒川校長 もしこの子が6年間しゃべることができずに小学校生活を終えていたら……と想像してしまうんです。多くの子供たちにとって「あおばならがんばれる」と思ってもらえる学校を目指したいですね。

《特別支援学級って最先端》「大勢の前で発表するのは大人でも難しいので…」先生が“成功体験”と“自分で選ぶこと”を大切にする現実的な理由

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