《特別支援学級って実は最先端の教育をしている》こんな発言が先日、SNSで話題になった。
「特別支援学級」とは、知的障害や肢体不自由、病弱、弱視、難聴言語、自閉症・情緒障害等のある児童を対象とした少人数の学級で、国内の公立小中学校だけで約30万人の児童が在籍している。このうち約15万人が、自閉症や情緒障害を持つ子どもたちだ。
「障害を持った子供のケアに手一杯で、先進的な取り組みなんて難しいんじゃないの?」と思われがちだが、「特別支援学級」は一人ひとりに合わせて指導方針を立てるため、実は新しい教育方法も取り入れやすいという。
2018年に東京都・狛江市立狛江第三小学校に設置された「あおば学級」も、そんな先進的な教育法を取り入れている特別支援学級の1つだ。正式名称は自閉症・情緒障がい特別支援学級といい、自閉症やそれに類するものや心理的な要因による選択性かん黙(特定の状況でうまく話せなくなってしまう症状)の児童を対象としている。あおば学級ではタブレット端末を活用して企業や大学と連携したり、ロボットのプログラミング学習を実施したりもしている。なぜ一般的な小学校でも難しいことが、特別支援学級では可能なのだろうか。
狛江第三小学校校長の荒川元邦さんと指導教諭の森村美和子さんに、あおば学級が先進的である理由について話を聞いた。(全2回の1回目。後編を読む)
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「“規定のものに自分を合わせるのが苦手だった”という体験を持つ子が多い」
――あおば学級には、どんな子供たちが通っているんですか?
荒川校長 あおば学級は自閉症や場面かん黙を抱える児童のための特別支援学級です。つまり知的な障害や、視覚や聴覚など身体的な障害がある児童は迎え入れていません。勉強については問題がないので教育課程や教科書も通常学級と同じで、授業も教える内容自体は同じなんです。
森村先生 ただ集団の中に入ると本来もてる力を発揮するのが難しくて、人が多いと疲れやすかったり、音やにおいに敏感で集中できなかったり、ということが多いです。なので、子供たちの学ぶ能力が発揮できるように手伝いをするのが「特別支援学級」の仕事。環境を整えると、子供たちは自分らしさを発揮するようになりますよ。
――環境に工夫があるのですね。あおば学級の教室を拝見しましたが、通常の学級とは全く違って驚きました。
森村先生 そうですね。真ん中にはみんなで座ることができる机が並んでいて、1人で集中したい子は、教室の隅のパーティションで仕切られた個室スペースで勉強します。机はみんな同じものですが、椅子はバランスボールや体をしっかりホールドできる形の椅子まで様々なものを用意していて、子供たちが自分好みの学習環境を選べるようになっているんです。
――学校で椅子を選べるのは面白いです。
森村先生 あおば学級には“規定のものに自分を合わせるのが苦手だった”という体験を持つ子が多いので、「周りに合わせられない自分はダメなんだ、存在価値がないんだ」と自分を責めていたりします。だからあおば学級では椅子も含めてできるだけ多くのものを“自分でチョイスできる”体験を大切にしています。
椅子も自分で選ぶとなると、子供たちは自分にどれが合うかを考えはじめます。「カッチリした方が合うかも」とか、「揺れている方が自分は落ち着く」とか、道具を選ぶ中で緩やかに自己を理解していくことができるんです。