今回、開票速報において公明党代表の山口那津男さんがインタビューに答えるにあたり、「改憲勢力が3分の2を超えたのは良いが、どう憲法を変えるのか。その中身がはっきりしないことには態度を示しようがない」としたうえで、「憲法の解釈において自衛隊の立場はすでに確立している」「(平和憲法を支える条項である)憲法第9条2項の変更は行うべきではない」という趣旨の発言をしています。公明党は自民党と連立で政権に参加しているので改憲勢力に加えられていますが、従前より憲法に現代に見合った内容(条文)を書き加える「加憲」の立場であり、場合によっては自民党とすら憲法改正で折り合えない可能性があります。
また、維新代表の松井一郎さんは、今回の参院選をもって代表を辞任して引退する方針を改めて表明したうえで「スケジュールがハッキリしないと憲法改正の議論は進まない。憲法審査会の実施の時期を決めて、みんなで持ち寄って議論する必要がある」と語っています。しかし、維新の場合は憲法改正の内容に関して、教育無償化や憲法裁判所の設置に統治機構改革といった、憲法とはおよそ関係なさそうなテーマを掲げているため、そうした方針を改憲勢力各党で揃えるのも大変なのではないかと思います。
これら、自民、公明の与党と維新、国民の「改憲勢力」と言っても組織内の調整や方針には開きがあるわけで、本当に憲法改正に着手をするならば、最大勢力を持つ自民党は、責任をもってこの調整をかなり綿密に、確実に仕上げて発議をし、国民投票に向かわなければならないことを意味します。
選挙結果がこのような状況になったことに加えて、日本国憲法の改正を悲願とし、まさにライフワークとして取り組もうとしていた元総理・安倍晋三さんが暗殺されたことで、その遺志を継いで岸田政権がどう改憲議論をリードし、与えられた最大3年という期間の中で必要な改憲内容を策定して改憲勢力をまとめ、定めた期間で憲法審査会を通して国民投票にまで持ち込むのかを考える必要があります。
過去の安倍政権や菅政権に比べて、政策推進能力においてやや疑問符を持たれ、また、今回の参院選直前まで自民党と公明党との間で選挙協力をどうするのか決まらずドタバタしていた岸田官邸と自民党本部はどこまで仕切ることができるのか、詳しく見ていく必要があるのではないでしょうか。
(2)今回も、野党共闘で有権者の考えを掘り起こすことができなかった
NHKや民放などでの報道でもあります通り、出口調査において投票した有権者の約7割強が「岸田政権の政策運営を評価」していると回答をしています。直前のNHK世論調査の結果では、岸田政権の支持率は54%、不支持率は27%であったことを考えると、岸田政権を少なくとも支持しなかった人たちの約2割強は、投票所に足を運ぶことはなく、自公政権に批判的な政党に票を入れなかったことになります。
これこそ、本来政治に不満を持ち、政権に対して批判的な見解を持つ有権者を掘り起こす潜在的な票田であることは間違いなく、一連の左派系野党による野党共闘が今回も機能しなかった現象を示すものだとも言えます。