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材料費だけで1500万円超の私財を投入

 親松は、マリア像のイメージが固まるまで、ステレオタイプの固定観念を転換することに腐心したという。像に特定のモデルは無く、学生時代から仏像を彫ってきたこともあり、仏像彫刻の抽象美と、キリスト教彫刻のリアリズム美を融合させることにこだわった。

 材料となるクスノキの巨木は自腹で調達。バブル経済時代に1000万円の値がついた銘木だ。クスノキはヒノキと並んで木彫に最適で、樟脳(カンフル)の材料となるため防虫効果があり、ひび割れを起こさず柔らかで彫りやすい。10年20年雨ざらしでも腐食しないほど丈夫だという。親松はマリア像の材料費だけで1500万円以上の私財を投じた。

像を製作中の親松さん ©南島原世界遺産市民の会

 親松が取り組んだマリア像は、発注先や納品先、納期、価格などが決まっているものではなかった。40年間、ひたすら限りある人生の時間を削り、生計と製作を両輪にかけて作って来たものだ。妻と3子を抱える親松は家庭人でもある。苦しく逃げ出したくなったことはないのか。

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「朝6時から深夜1時、2時まで一心不乱に彫り続ける。ノミと槌を手にしているとむしろ心が癒やされ、満足感、充実感を得られて眠りも深い。逆に彫っていないことがストレスになる。佐渡で育った幼少期も、友達と連れ立って遊ぶより、ひとり山に籠もって写生や木彫をするのが好きな子だった。

 家業は農業だから畑仕事を手伝い、夕食を摂ると家族はバタンキュー。でも私はノミを取り出して彫刻を始めた。頭がスーッと冴えてむしろ農作業の疲れが取れる。でも、母親が騒々しくて眠れないとこぼすので、夜は庭先の別棟に籠もって彫り続けた」

 ひとたびノミを握れば集中して、憑かれたように彫り続ける親松。マリア像は超大作なので助手を雇ったほうが効率的と助言されることも多かった。ただ助手は、親松を差し置いて自分だけ休憩や休日を取るわけにもいかない。親松も助手をあれこれ気遣わねばならず集中力が途切れてしまう。互いに不幸なのは自明なので、マリア像は40年間、たったひとりで彫った。