都民の命を守る東京女子医科大学病院が、いま存続の危機に立っている。医師・看護師らの大量退職が続き、毎月2億円を超すペースで赤字が出ているのだ。
この危機を招いたとされる“女帝”理事長の公私混同、そして元宝塚スター親族企業らが関係する「疑惑のカネ」を徹底追及する──。(全3回の1回目)
※週刊文春2022年4月28日号(4月21日発売)に掲載された記事に、取材を追加して再構成
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若い看護師たちの大半は辞職、研究費は4億円以上カット
「入職した当時、女子医大の看護師であることが誇りでした。でも今はここで働いていることを恥ずかしくて言えません」
こう嘆くのは、キャリア20年あまりのベテラン看護師である。今後、病院の運営が維持できるか、大きな不安を抱いているという。
「自分が育てた若い看護師たちの大半が、辞めてしまったからです。将来に希望が持てないとか、労働条件や経営方針に納得できないという理由でした。経営陣が、働く職員を大事にしないことが報道で知れ渡っているので、求人を出しても、希望者が全然集まりません」
創立120年を超す名門である東京女子医科大学(東京・新宿)。中核を担う東京女子医科大学病院は、心臓、脳、消化器、腎臓移植などの分野で国内トップクラスの手術件数を誇り、日本の医療をリードしてきた。他の病院では対応できない難しい症例を引き受け、都民の命を守る最後の砦でもある。
また、唯一の女子大医学部として華やかで自由な校風で知られ、全国から優秀な医師や看護師が集まっていた。
大学病院の雄とも言える東京女子医大が、いま別の組織のように変容しているという。同大の30代医師がこう打ち明ける。
「利益に直結する病床稼働率を1日2回も報告させ、各診療科を競い合わせるようになりました。そのため、必要のない入院を勧めてしまう若手医師もいます。一方で、コスト削減の一環として、研究費が4億円以上カット(2019年から2020年)され、医学文献のデータベース使用料も有料化されました。大学病院ではあり得ないことです」
1年で医師が97人減、看護師は162人減「いつ事故が起きても不思議ではない」
その影響から医師の離職が急増しているという。同大・教授が続ける。
「経営方針に反発して、優秀な人ほど女子医大に見切りをつけるように去っていきました。凄いペースで医者と看護師が辞めているので、これまでの医療の質は保てない状況です」
女子医大病院では、この1年間で医師が97人減(859人→762人)、看護師に至っては162人減(1195人→1033人)となっており、これが、現場に深刻な負担を与えている。
「夜間の時間帯は、特に人手不足でいつ事故が起きても不思議ではありません。若い医師を丁寧に指導するのが、女子医大の伝統でしたが、その余裕も無くなりました」(前出の30代医師)
看護師不足のため、閉鎖された病棟もある。今年度は許可病床の約1200床中、運用できるのは800床程度しかない。早速、この影響は経営に大きく響いている。4月と5月は、連続して2億円を超す赤字が出ているのだ。
すでに始まっている、診療現場の崩壊。このような状況になった背景には、女子医大を支配する一人の“女帝”の存在があった――。