京都・蓮久寺の三木大雲住職のもとには、助けを求める人が絶えない。ポルターガイストに悩まされている、人形をお祓いしてほしい、さまよう霊を供養成仏させてほしい……。そんな実話や自身の体験など、現代の怪談、奇譚の数々を収めた『怪談和尚の京都怪奇譚 宿縁の道篇』(文春文庫)より、背筋も凍る「清掃」を特別公開。見えない世界に触れることで、あなたの人生も変わる……のかもしれない。(全2回の1回目/後編に続く
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 お坊さんの修行の中で、外す事ができないのは掃除です。掃除には、身の回りを清潔に保つという意味は勿論ありますが、物への感謝、物への労りの心など、全ての物に魂があるという事を理解するのに、大切な行動のひとつです。

 これを理解してはいるのですが、私は掃除が得意かと言われますと、そこまでではありません。まだまだ身の回りの物への感謝が足りていないのだと自省しております。

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 さて、今回は掃除のプロ、清掃員の方からお聞きしたお話です。

写真はイメージです ©iStock.com

 私は大学を卒業後、清掃会社に就職しました。初めての仕事は、深夜のビルの清掃でした。床、窓は勿論、トイレ、会議室、空調設備に至るまで、全ての箇所を綺麗にします。私は2年間このビルで清掃をしました。その間に、掃除の仕方、清掃器具や薬剤に関すること、また仕事の効率を上げる方法などを学びました。

 入社時から、将来は独立して清掃会社を立ち上げたい、と会社にも言っておりました。それを分かった上で、会社も私を雇ってくれていました。

上司からの破格の提案、唯一の条件は…

 そんなある日、上司に呼ばれた私は、こんな話をされました。

「まだ2年しか経っていないけど、独立に向けた準備に入る気はないか」そう言って頂いたんです。

 会社立ち上げには、色々なお金が掛かります。そこで、今の会社から清掃に必要な機械はリースで貸し出してくれると言うのです。しかも、清掃に必要な特殊な薬剤も、大量購入すると安く買えるので、必要な分を一緒に買ってあげると仰ってくださいました。

 そして、会社が軌道に乗ってきたら、機械も自分で買って、正式に独立すれば良いと、私の独立を後押ししてくださいます。

 こんな有難い事はありません。私は上司に独立に向けて動きたいとお願いしました。

 すると上司は「1つだけ条件がある」そう言われました。その条件が飲めなければ今までの話は無かった事にすると仰るのです。