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「エレベーターの壁にびっしり鳥居の落書きが…」ワケありマンションで清掃作業員が目にした“恐怖の光景”

怪談和尚の京都怪奇譚 宿縁の道篇――「清掃」#1

2022/08/05

genre : エンタメ, 読書

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 かなり難しい条件なのかと思ってお話をお聞きしましたら、寧ろ私にとっては大変有難い条件でした。

 その条件とは「我が社から仕事を紹介する。しかし紹介した仕事は決して断らない事」そのように言われました。

 勿論、立ち上がったばかりの会社ですから、仕事は直ぐには見つかりません。ですから、この条件は、こちらにとってはとても有難い事です。所謂、下請けになる訳ですが、断る理由がありません。私は勿論「かしこまりました。よろしくお願いします」と即答しました。

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清掃に向かった先は、とあるマンション

 私はお世話になった会社を辞め、数ヶ月後、自分の会社を登記し、アルバイトではありますが、木村君という20歳の青年を1人雇いました。そして、以前の会社の上司を含め、重役など関係者と正式な契約を交わし、早速仕事を紹介して頂きました。

 その仕事は、とあるマンションの臨時清掃でした。清掃の契約形態には、毎日掃除をする日常清掃、定期的に清掃を行う定期清掃、そして、必要な時だけ呼ばれる臨時清掃があります。これらの契約は、マンションの規模によって色々と変わります。

 私は早速、現場であるマンションの下見に出かけました。マンションの汚れ具合や清掃終了までにかかる時間や人員、必要な用具などの査定をする為です。

写真はイメージです ©iStock.com

 現場のマンションは、工業地帯の中にありました。建物の感じから、築50年は最低でも経っているだろうと一目でわかります。外壁は黒く汚れていて、所々にヒビも見受けられます。6階建てで、狭いながら一応エレベーターは付いていました。面積はそれほど大きくなく、各階、4部屋ずつ程です。このくらいの規模が、慣れないアルバイトとする最初の仕事としては丁度良いと感じました。それに、管理会社もそれほど厳しい条件を出す事がなく、提示金額以内であれば、清掃時間も日程も任せますと言ってくれている様でした。

壁にびっしりと描かれていたものは

 数日後、朝の9時から清掃に入る事にしました。私は木村君と共に、清掃準備を整えて現場へ行きました。最上階から順番に清掃して行きます。

 清掃器具を持ってエレベーターに乗ると、マジックペンで描いたであろう落書きが目に飛び込んできました。よく見ると、その落書きは鳥居なのです。鳥居が壁にびっしりと描かれていたのです。それに、何かを焼いたような臭いがこびり付いていました。これも綺麗に消さなくてはいけません。