私達は最上階の廊下まで行くと、早速清掃にかかりました。先ずは砂埃が溜まっていたので、それを掃くことから始めました。掃除をしていると、一室から住人の方が出て来られました。
「ナニシテル」明らかに日本人ではない体格の良い男性が話しかけて来られました。
私はマンションの管理会社から依頼を受けた清掃会社のものです、と丁寧に説明しました。するとその男性は、注意してほしいことがあると仰るのです。
それは、エレベーターに描かれた落書きを消さないこと。それに、廊下の盛り塩には触らない。そして、廊下の手すりに括り付けている鳥居も外さないように、と言われました。私はてっきり手すりに付いている物は、何かの飾りかと思っていましたが、よく見てみるとそれは小さな赤い鳥居でした。
盛り塩はともかく、落書きを消さないのは難しいと住人に説明しました。ですが「ワタシガ オオヤニ ハナシ スル ダイジョウブ」そう言われ、取り敢えずそのままにしておく事にしました。
依頼主からきたクレーム
我が社の初仕事は、3日で全ての清掃を終えました。先ずは終了報告書を以前の職場に渡し、管理会社への確認連絡を入れて頂きました。これが正式に受理されるまで、給金を支払ってもらえません。
次の日、以前の会社の上司から、依頼主からクレームが来ていると聞かされました。最上階の廊下の手すりにある鳥居と盛り塩、エレベーターの落書きが残ったままだ、という内容でした。
私は書類に、居住者様からご指摘があり、敢えて清掃を避けた旨を書いておりました。しかし依頼主からは、全て綺麗にする様にとのご指摘があったのです。
私は下請けの立場であり、やはり依頼主がお金を支払って下さる訳ですから、そちらの指示を優先させるのが普通です。ですが、敢えて私が住人の方の意見を優先させたのは、正直、怖かったからなのです。
何が怖かったのかと申しますと、エレベーターの中の大量の鳥居の落書き。そして、最上階の鳥居も、盛り塩も、全て神様と関係がありそうで、バチが当たるのではないかと思ったのです。ですがそんな事を言っている場合ではありません。アルバイトの木村君にも話をして、再度清掃に行くことにしました。
しかし、清掃に行って、またあの住人に止められては困る。そう思った私は、敢えて夜遅くに行くことにしたのです。