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「ドンッ」という音と共に落ちてきたのは…築50年ワケありマンションの臨時清掃を引き受けた作業員たちの末路

怪談和尚の京都怪奇譚 宿縁の道篇――「清掃」#2

2022/08/05

genre : エンタメ, 読書

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 そして手すりに付いている鳥居を取る作業へと移ります。しかしよく見ると、鳥居は針金でかなりしっかり留められていました。

「これは、簡単に取れそうもないから、一旦車に戻ってペンチを持って来るよ」そう私がいうと、木村君は、大丈夫だと言いました。

 見ると、鳥居を壊して取ってしまえば良いというのです。

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「木村君、流石に鳥居を壊すのはダメだ。俺がペンチを取りに行くまで待ってろ」そう言いましたが、木村君は言うことを聞いてくれません。

「うるさい。俺はこれを取り外すんだ」この時の木村君は、何かに取り憑かれた目をしていました。

 私は何度も木村君を止めましたが、鳥居を壊そうとします。

「ドンッ」という音と共に…

 そこで私は、すぐにペンチを取りに1階に向かいました。

 車からペンチを持って、最上階に戻ろうとしたその時、何処かから聞いたことのない声が聞こえて来たのです。

写真はイメージです ©iStock.com

「ワー、ウーウーウー」まるで威嚇する動物の鳴き声の様でした。私は思わず手を合わせて心の中で「ごめんなさい。ごめんなさい」と連呼しました。

 その瞬間「ドンッ」という音と共に、木村君が地面に叩き付けられたのです。

 即死でした。警察からは、鳥居を外そうと身を乗り出した時に、誤って落下したと聞かされました。その証拠に、木村君の両手には、真っ二つに割れた鳥居が握られていたそうです。

 その後もそのマンションでは、複数人の飛び降り自殺や落下事故が相次ぎ、今では取り壊されたと言うことです。

 私は清掃会社を畳みました。

 後日、風の噂で聞いたのですが、事故や自殺が絶えないマンションなど、どこの清掃会社でも仕事を受けない建物があるそうです。

 今回、私が下請けとして清掃させられた場所は、そういった物件だったのではないかと思っています。恐らく元上司も知っていたに違いありません。