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西川さんからオーナーに抜擢 

「お前、自分でオーナーやれ」

 セクキャバの店長に昇格して半年が経ったある日、西川さんからそんな提案を受けました。

 当時、西川さんはミナミに新しくラウンジを出す予定をしており、新規店に集中するという理由から、店長だった僕にセクキャバを譲りたいという話でした。そのころは店の売り上げも悪くなく、僕のなかでも多少なりとも商売に対する自信がつきはじめたときでもありました。

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 それに、ミナミで自分の店が持てるというのは1つの夢でもありました。

「やります」

 即答してみたものの、会長から出された条件は「月に300万を持ってこい」。店の売り上げを差し引けば、明らかに赤字になる数字でした。

 返事をしてしまった以上、いまさら撤回もできません。とはいえ、このままでは型にハメられてしまう。考えた末にたどり着いた答えは1つでした。

 店の経営スタイルの改革です。

 いまよりも儲かる店にしなければ生き残れない。店の方針を変え、いま以上の売り上げを叩き出す。それしか僕に残された道はありませんでした。

テポドンと恐れられた勇介(右) ©勇介/講談社

延長率をあげるための“ある方法”

 目をつけたのが延長システムの改善です。多くの水商売では、この延長の多さによって1日の売り上げががらりと変わってきます。集客のためにセット料金を安く設定している店ほど延長か否かが実入りに大きく影響します。安いランチで客を呼び、夜につなげる居酒屋と似た理屈かもしれません。

 当時の店の延長率は15パーセントほど。従来はそこまで問題ではありませんでしたが、西川さんへの上納金を含めると大赤字です。何が何でも延長率を上げる方法がないかと頭のなかを巡らせ、発案したのがビールの早飲み勝負。その名の通り、グラスに入ったビールをどちらが早く飲み干せるかという一種の賭けでした。

 10代のころからなぜか酒の一気飲みに強く、仲間内でも負けなし。早飲みは僕の特技の1つでもありました。常々、この早飲みを何か商売に生かせないかと思っていたゆえのアイディアでした。

 思いつきとも言える策でしたが、これがまさしく名案。団体客であればあるほどその効果が発揮されました。たとえば3~4人で来店したお客さんがいたとします。

「帰るよ」

 初回セットの時間が過ぎ、お客がチェックを要求するとします。当然、店長の僕は「延長はどうですか」と食い下がる。それでもお会計を頼むお客さんに提案するのが「早飲み勝負」です。

「わかりました。ではビールの早飲み対決はどうでしょう。もし、お客さんが勝ったら全員分の延長代を無料にします。その代わり、僕が勝ったら正規の値段で延長してもらえませんか」

 お客さんからすれば勝てばタダ、負けても延長をするだけでペナルティはなし。まるで損というわけではありませんから大半のお客さんはこの話に乗ってくれました。