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マンションの隣人を刺し殺し、そして自らも…事故物件に住む30代女性が知った“驚くべき事実”

怪談和尚の京都怪奇譚 宿縁の道篇――「共感」#2

2022/08/03

source : 文春文庫

genre : エンタメ, 読書, ライフスタイル, 娯楽

note

三木和尚のもとを訪れた理由

 葉山さんはそう話し終えられると、マンションで今も喧嘩しているであろう方々の供養をお願いされました。私はそれを聞き、こう答えました。

「見ず知らずの方の為に、供養をされるのは素晴らしい事です。見ず知らずの方の為に、祈りを捧げるのは美しい事です。一緒にお経をあげましょう」と。

 すると、葉山さんは恥ずかしそうに「今では趣味になりましたが、本当は元々は引っ越しは趣味ではなかったんです」と教えてくださいました。

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写真はイメージです ©iStock.com

 実は、葉山さんは、ご両親から引き継いだ家をお持ちだったそうです。しかし、ご近所トラブルによって、引っ越しを余儀なくされたらしいのです。その時は非常に辛くて、悔しくて、孤独すらも感じていたそうです。

 その後は、定住するという気持ちで暮らすのではなく、いつでも引っ越すつもりで暮らしていると、気が楽になったと仰います。そして今では引っ越しそのものが楽しくなられた様です。

 そのような経験をされたからこそ、今回の出来事で、両方の気持ちが良くわかるのだと仰いました。生きていた時も辛かったでしょうが、亡くなられた後まで揉めるなんて可哀想だと思い、供養をお願いに来られたのです。

 人間にとって、共感するということは、とても大切な事だと思います。互いの気持ちを分かり合えるのは、一つの救いにもなる様に思います。しかし、その共感の仕方には、幸福を招く場合と、不幸を招いてしまう場合があるのでしょう。

 例えば、苦しい気持ちが分かる者同士が集まってみんなで絶望してしまうと、決して良い結果は生まれません。互いに共感し、そこから抜け出す努力を模索しなければなりません。そんな事は無理だと思う事があっても、人間には未来があり、それを変える力をみんなが持っているのです。

 それが、喜びであっても悲しみであっても。そして、共感相手が亡くなった人であっても……。

INFORMATION

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