カフェやコワーキングスペースより河原
――車内を拝見させていただきましたが、あの狭さが漫画を創作するにあたっての集中を引き上げたりするものですか。
井上 漫画を描くことにあたっての環境としては、あんまり不満はないです。あれぐらい狭くてもまったく問題ないし。家があった頃は、自分の部屋もありましたけどね。ちゃんと漫画を描くための机があって、よくある漫画家さんの部屋って感じで。
集中に関しては、いまのほうができますね。ただ、狭さとか広さは関係なくて、ほかにやることがないだけで。テレビもないので、ラジオを聴くとか、音楽をかけるくらいしかないですから。家にいた時は、掃除とか買い物とかいらんこともいろいろありましたしね。
――車を停めて、カフェやコワーキングスペースで描いてみようとは。
井上 そういうところを利用すると、ルーティンになっちゃうと思うんですよ。たとえば「1カ月ぐらいこのあたりに滞在しようかな」と思えば、それもひとつの環境として取り入れられる可能性はありますけど。そこまで自分の肌に合うような場所があるかといえば……探してないからかもしれないですが、そうそうあるものじゃないので、考えとしてはないですね。それこそ、そのへんの河原に車を停めて座っていたほうが、よっぽど構想は練れるよね、という。
デジタルのおかげで、このまま家なしで生活していけるかも
――iPadで描かれているそうですが、デジタルガジェットのおかげで車中泊における執筆活動は捗るものですか?
井上 やっぱり車中泊ですからね。必要に迫られてiPadを導入しました。それまでアナログで漫画を描いていて、この生活になってから全部デジタルに移行したんですけど、結果的になんら問題ありませんでした。この環境下で漫画が描けているのは、デジタルのおかげというか。
まぁ、最初のうちは慣れなくて、強制的に慣れたという感じでしたけど。なんだったら、僕はデジタル否定派でしたから。「デジタル? インクにつけて描くのが漫画でしょう」と思っていたぐらい。
それが家を売り払うことになり、仕事はちょっと入ってはきているけど描けない。で、部屋を探しても、その家のために働くのも嫌やし、ネタも尽きるやろうしと思った時に「あっ、車で描けるじゃん」となって、すべてが広がった感じですよね。だから、この生活をするのにはデジタルありきのところがありますよね。これで全国どこでも漫画を描けると。このまま、家なしで生活していけるんじゃないかって。