文春オンライン
「実家に帰らないんですか?」という声も…53歳男性が3年間続けた車中泊生活を“終える時”

「実家に帰らないんですか?」という声も…53歳男性が3年間続けた車中泊生活を“終える時”

『#離婚して車中泊になりました』井上いちろうさんインタビュー #2

2022/08/13
note

 離婚して30年ローンで購入した中古の一戸建てを手放し、父から譲り受けた軽ワゴンで車中泊しながら、全国各地で漫画を描く。

 そんな日々を題材にした漫画『#離婚して車中泊になりました』。

 作者である井上いちろう氏(53)に、車中泊生活の終わり、これから車中泊に挑んでみたい人へのアドバイス、これから旅してみたい場所について、話を聞いた。

ADVERTISEMENT

「家を目標にして生きる」ことをしたくなかった

――作中でも語られていますが、2019年4月に離婚、10月に家を売却。さらに、収入のアップダウン、新しい家を借りる煩わしさ、そして、ご自身でもおっしゃっていましたが「人嫌い」でもある。すべてが嫌になったといいますか、そうしたものが重なっての車中泊生活スタートだったのでしょうか?

井上 「家を目標にして生きる」みたいのを、もう一回したくなかったんです。人生の一番でかい買い物が家だとして、もし買ってしまったら、そのローンを払うために仕事をするわけじゃないですか。買わずに部屋を借りたとしても、そこに住むのをキープするために仕事をしなくちゃいけない。そういうのに、なにも未来を感じなくなったんですよ。

井上いちろうさん

――そこに53歳という年齢による悟りみたいなのも乗っかってきませんか? 仕事はあっても、この先でどデカく当てることや稼ぐことはないだろう、みたいな。

井上 まさに。二十歳あたりの頃は「俺も『ドラえもん』『ドラゴンボール』みたいなのを描くぜ!」と息巻いていましたけど、限界って感じるんですよね。自分がそこまでのファンタジーものを描ける人間ではないと、だんだんわかってくるわけです。で、50ぐらいになったら、もう限界値。

 持ち込みをして「この漫画は、大きな剣を持った男がね」なんて、もう言えない。でも、見たものは描けるんです。そこは漫画家としてのスキルがあるので。

 あと、家を持たずに車中泊しながら漫画を描くというスタイルがなかったのも、自分には興奮できる要因で。それと見たものを描くスキルを合わせたら面白いなと思ったし、モチベーションにもなったんですよ。