コロナの影響でリモートワークが当たり前になった現在、大都市東京から離れ2拠点生活や移住をする人が増えている。ノンフィクション作家の神山典士氏はこうした状況を「東京一極集中を解消する千載一遇のチャンス」と捉え、各地で新しい生き方を実践している人々と接してきた。自らも埼玉県ときがわ町に7LDKのシェアハウスを構え、2拠点生活を送っている。そうした取材や実体験をもとにまとめ上げたのが『トカイナカに生きる』(文春新書)である。

 一方、日本総合研究所主席研究員で、『デフレの正体 経済は「人口の波」で動く』(角川新書)の著書がある地域エコノミストの藻谷浩介氏は、以前から「里山資本主義」を提唱してきた。

「大都市一極集中の弊害」や「分散型社会のあり方」について、神山氏が藻谷氏に話を聞いた。(全2回の1回目/後編に続く)

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都心から1.5時間の「トカイナカ」

『トカイナカに生きる』は、都心から1.5時間エリアを「トカイナカ」と呼び、そこで様々なスタイルで生活する人、働く人の姿を描いた作品だ。「トカイナカで生き方働き方を変える」「起業する」「古民家で暮らす」「ローカルプレイヤーになる」「パラレルワーク(複業)する」「地域を6次化する」「よそ者力を発揮する」といったテーマで取材してきた。訪ねた地域は長野県軽井沢町(追分)、神奈川県鎌倉市、千葉県いすみ市、富津市、匝瑳市、埼玉県小川町、ときがわ町等々。

 いうまでもなく、コロナを機に、それまで東京へ東京へと「一極集中」してきた日本人の流れが変わった。東京から地方へと流出する人口が増え、しかも「転職なき移住」が可能な首都圏近隣(トカイナカエリア)への移住・2拠点生活希望者が圧倒的に増えた。

ときがわ町の風景

「下り列車に乗った幸せ探し」ができる国づくり

 このことは、一極集中解消のチャンスであり、この流れの先に「下り列車に乗った幸せ探し」ができる国づくりがある。そう考えて、私はこのテーマで取材を進めてきた。 すると上記のようなテーマですでに生き生きと生きている、働いている人たちとの出会いがあったのだ。藻谷は、その登場人物の中に既知の名前を幾つも見つけて、それを喜んでくれた。藻谷はこう語った。

「本書に書かれている中で、ぼくが前から特に尊敬している大先輩は小川町の有機農業の実践者金子夫妻です。その夫妻のことを、本書では70年代の有吉佐和子さんの『複合汚染』まで遡って書いている。同時に金子さんのことが、若者たちのネット社会の産物である『田舎でフリーランス講座』とか移住者である関根さんが始めた『起業塾』とかと違和感なく並べて書かれている。ぼくは『天の時、地の利、人の輪』の中では『地の利』を重視するんだけど、若者も関根さんも金子さんも、同じ『地』の上で一つの物語として繋がっている。トカイナカの大先輩が金子さんであると書かれているのは、『トカイナカ』の本質を突いた素晴らしい炯眼だと思いました。