コロナの影響でリモートワークが当たり前になった現在、大都市東京から離れ2拠点生活や移住をする人が増えている。ノンフィクション作家の神山典士氏はこうした状況を「東京一極集中を解消する千載一遇のチャンス」と捉え、各地で新しい生き方を実践している人々と接してきた。自らも埼玉県ときがわ町に7LDKのシェアハウスを構え、2拠点生活を送っている。そうした取材や実体験をもとにまとめ上げたのが『トカイナカに生きる』(文春新書)である。

 一方、日本総合研究所主席研究員で、『デフレの正体 経済は「人口の波」で動く』(角川新書)の著書がある地域エコノミストの藻谷浩介氏は、以前から「里山資本主義」を提唱してきた。

「大都市一極集中の弊害」や「分散型社会のあり方」について、神山氏が藻谷氏に話を聞いた。(全2回の2回目/前編から続く)

ADVERTISEMENT

◆◆◆

「田舎には何もない、東京にいけ」

 もう一つ、日本が東京一極集中から抜け出せない理由がある。それは、親世代が子供に対して「田舎には何もない、東京にいけ」といい続けてきたことだ。藻谷は「それが明治時代から3世代約100年続いてきた」と言う。

©iStock.com

「私は山口県生まれで高校卒業後上京してきた人間だからわかるんですが、以前は広島に行かないとマクドナルドがなかった(笑)。本屋もなかった。大学も地方にまともなものはなかった。だから私たちの世代までは上京したのですが、いまは変わりました。マクドナルドなんてあってもなくてもいいし、書店がなくてもアマゾンがある。大学もオンラインで授業が受けられる。全国どこにいってもコンビニはあるし、地方には東京にはないホームセンターがあってとても便利です。

 逆にうちの子は東京に住んでいるのに『パソコンのアダプターがなくなって』というとすぐにアマゾンでオーダーします。秋葉原に買いにいこうともしない。ポチッと押せば翌日に届くんだから、その方が便利だ。つまり東京にいる理由がまったくないんです。

 マスコミに出たいという子がいても、ユーチューブやるのに東京に出る必要ないし、ついには島根県の離島にある海士町に出版社ができてしまいました。いままでなら出版社は知能集約型のビジネスだったから絶対に都会でないと成立しないと思われていました。でもいまは完全にネット商売だから、どこでも成立する。海士町にあるからといって地方をテーマにした出版社じゃなくて、全く普通の出版社です。トヨタを辞めて移住した人が始めたのですが、海士町の方が地価が安いし、その方がブランドが立つ。海士町で生まれた本として、販路も広がったりする。本ですら地方で生まれる時代になったんです」