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「東京都市圏は、世界で何番目に大きな街でしょうか?」

 さらに藻谷はこうも言う。

「ちなみに都市圏としての『東京』という街は、世界で見て何番目に大きな街でしょうか?」

 これまた一筋縄では答えられない問題だ。「東京」をどこまで「東京」と呼ぶのか? 国が決めた自治体の境界線ではなく、「生活実感として所沢も東京の一部とします」と藻谷は言う。となると――。

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「これもあまり正解する人はいないのですが、世界的に見て東京都市圏の規模は圧倒的に1位です。ニューヨークより重慶より上海よりソウルより遥かに大きい。そういうことを知らない人が、東京にもっと人を集積させろと言っていたりする。ティラノザウルスはもっと大きいほうが生き残れるんだと言っているようなものです。

東京・渋谷の様子 ©iStock.com

 世界的に見ると東京だけが圧倒的に世界最大で、次のクラスがソウル、大阪、ニューヨーク、上海。ということは、世界最大の東京と二番手の大阪をもっている日本がこの30年間経済が全く成長していないんです。つまり大都市をつくることは、人を減らすどころか金も増やさないことの証明です」

 なるほど。そう言われればわかりやすい。藻谷がデータを出してくるたびに、私たちは現実の薄皮を剥がしリアルと対面させられることになる。

世界標準の国づくりをするために

「例えばアジアで経済力が強いといえばシンガポールです。あそこは福岡程度。名古屋よりも小さい。ヨーロッパでうまくいっているのはスイス。スイスの最大都市はチューリッヒだけど、所沢程度の大きさです。ジュネーブは越谷程度。スイスは埼玉県より少々大きい程度です。

 でも一人あたりのGDPは日本の倍以上ある。ドイツの経済の中心はフランクフルト。あそこは福岡くらいです。スペインの中心バルセロナも福岡程度。つまり世界のいけてる町はみな福岡程度なのです。

 そう言う町が世界的に競っているときに、東京をもっと大きくすれば勝てるという人はどんな認識で言っているのか? 現場を見ていないし、数字も見ていない、世界的認識のアップデートができていない人が言っているだけです。これをガラパゴスといわずになんというのか。

 私は空気認識と呼んでいます。事実を全く認識せずに、空気だけ読んでいる人です。ですが空気は、昭和の成功体験の産物。これからは人を分散させて、トカイナカに人を送り込んで、世界標準の国づくりをしないといけないのです」

 

トカイナカに生きる (文春新書 1368)

神山 典士

文藝春秋

2022年6月17日 発売