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余命3か月の父のために娘が結婚式を開催…付き添いの看護師が挙式当日の朝に驚愕した“衝撃的な事実”「え? 嘘でしょ?」

『自分らしい最期を生きた人の9つの物語』より #1

2022/08/04
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父がSNSに投稿していた写真を見てみると…

 友達リクエストの承認ボタンを押し、父の投稿を見てみると、そこには家族の写真があふれていました。皆で沖縄に旅行に行って、海に潜ったときの写真。お母さんと食事したときのラブラブツーショット。孫を抱っこして、デレデレと笑っている父の顔写真……。

 その中に一枚、みきさんと2人並んで撮った写真が、「プロフィール写真」として投稿されているのを見つけました。高校時代、久しぶりに家族皆で食事に行ったときの写真です。レストランのテーブルで、2人揃(そろ)ってぎこちない笑顔。それでもお父さんはうれしかったのか、みきさんの肩に手を伸ばし、そっと抱きしめています。ちょっと緊張して指先がピンとなりながら。

「隣に写っているのはみきちゃんですか?」という父の友人からのコメントに、「はい、みきです。すっかり大きくなって高校生になりました。最近はめったに一緒に出かけることがなくなってしまったので、これが貴重なお出かけの一枚です」。

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 そう返事が書かれていました。

「お父さん、私の写真まで載せちゃって……。私のこと、ずっとずっと思っていてくれていたんだね。働き盛りのときに突然病気になって、きっと相当つらかったはずなのに、私はいつも生意気な口をきいて、遠ざけて、お父さんを傷つけた。本当にごめんなさい……」

 思わぬ形で父の本心を知り、涙がとめどなくあふれる。その瞬間、凍っていた心がスーッと溶けていくのでした。

父と母への愛が、みきさんを突き動かしていく

 それからみきさんは、父との時間を取り戻すかのように、毎日病室に通うようになりました。一緒にいる時間が増えるたび、父の優しい面がどんどん見えてきます。

 自分も病気で苦しいはずなのに、「お母さん、どうしてるかな?」と、別の病院に入院する母を心配する。母も身体の痛みに耐えながら、「お父さんの体調はどう?」と気にかける。そういえば、入院する前も父と母は互いを気遣い、「がんばろうね」「元気になろうね」と闘病生活を支え合ってきた。両親の互いを思い合う姿が思い出され、その愛の深さに心打たれるようになっていったのです。

 あらゆる手を尽くして治療が施されましたが、その甲斐(かい)もなく、お母さんは他界。最後まで「結婚式を挙げてほしい」と言い続けてきた母の、遺言とも思える一言が後押しとなって、みきさんは結婚式を挙げようと立ち上がりました。

「みきは子どものころからすごく控えめで、自分から行動を起こすようなタイプじゃないんです。だから、みきがお父さんのためにアクションを起こしたことにびっくりしたというか……」

 一番上のお姉さんが、ぽそっと教えてくれました。

 だとすると、お父さん、お母さんへの愛が、彼女を突き動かしたに違いない。人は、愛する人のためだったらなんだってできる。怖いとか、恥ずかしいとか、自分の感情はさしおいて、とてつもないパワーが出ることを、僕はかなえるナースのクライアントさんを見てきて知っていました。

 式が始まる5分前。篠田さんが教会に到着しました。扉の前で、父と亡き母、娘のわずか数分だけのファーストミートが終わると、すぐに新婦の入場です。みきさんは、隣にいるお父さんの腕を優しく握りました。

 目の前には新郎のもとへと続く真っ白なバージンロード。一歩ずつ、ゆっくりと進んでいきます。みきさんがこの両親のもとに生まれ、育てられ、大人へと成長するまでの道のりを1つひとつ愛(いつく)しむかのように……。遺影の中のお母さんも、お父さんの手の中でにっこりと笑って、バージンロードを歩いています。

 新郎のもとまでたどり着くと、お父さんは彼の手をしっかりと握りました。

「娘を頼んだぞ」

 声には出さずとも、心の中でそう言っているように見えました。本当はずっと前から、こうしたかったんじゃないかな。僕はそう感じました。

 母の願い通り、神様の前で結婚の誓いを立てると、みきさんからお父さんに向けて、感謝の手紙が読み上げられました。

自分らしい最期を生きた人の9つの物語

前田和哉(かなえるナース)

KADOKAWA

2022年6月17日 発売

余命3か月の父のために娘が結婚式を開催…付き添いの看護師が挙式当日の朝に驚愕した“衝撃的な事実”「え? 嘘でしょ?」

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