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余命3か月の父のために娘が結婚式を開催…付き添いの看護師が挙式当日の朝に驚愕した“衝撃的な事実”「え? 嘘でしょ?」

『自分らしい最期を生きた人の9つの物語』より #1

2022/08/04
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肺がんが脳に転移した父のために結婚式を…

「がんが進行して、死期が迫っている父のために結婚式を挙げたいのですが、できるでしょうか?」

 友人のドクターを通じて、娘のみきさんから問い合わせがあったのは、ほんの10日前のこと。すぐさまオンラインで打ち合わせをすると、みきさんはホスピスの病室にいました。どうやらお父さんのベッドサイドにいるようです。

「今日は父の意識がなくて……」

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 画面の向こうから、ゴーゴーと篠田さんの大きないびきが聞こえてきます。肺がんが脳に転移しているらしく、「これはかなり危険な状況かも」と不安がよぎりました。

「余命3カ月と言われてから、すでにその3カ月目に突入している」と聞き、もういつ亡くなってもおかしくない状態なんだとわかりました。

「実は私、すでに入籍していて、もうすぐ2歳になる息子もいるんです。でも、結婚式ができていなかったのがずっと心残りで……。父に私たち夫婦の結婚式を見届けてもらいたいです」

「みきさんのお気持ち、よくわかりました。では、式の準備は進めて、お父さんの容態を見ながら参列できるかどうか判断しましょう」

 僕はそう答えたものの、友人のドクターと「篠田さん、式に出るのは厳しい可能性もあるね」とひそかに話し、万が一の際の心構えをしておきました。

 今回ばかりは、かなう確率は低いかもしれない。でも、奇跡が起こることを信じ、ご家族の方たちと式の準備に取りかかりました。

「篠田一家の結婚式大作戦」

 4人きょうだいの末っ子だというみきさん。お兄さんと2人のお姉さんとは仲がよい様子で、早速みきさんを中心に「篠田一家の結婚式大作戦」が始まりました。

 まずは、ごきょうだいが超特急で式場となる教会を予約。壁一面ガラス張りで、陽(ひ)の光と木々の鮮やかな緑が目に飛び込む、美しい教会です。新郎新婦も衣装合わせなど着々と準備が進んでいきます。

「音楽が好きなお父さんのために教会で生演奏ができないか」と考えたお姉さん。通勤路でたまたま見つけたハープ教室に、突撃訪問するというファインプレーを見せてくれました。いきなりのオファーにもかかわらず、演奏家の方々が快く引き受けてくれて、当日はハープと弦楽器による三重奏をしてもらえることになりました。

 こうして次々と僕のもとに吉報が届きます。家族全員が思いをひとつにして動くと、どんどんいい流れがやってくる。こういうときは必ずうまくいくと、これまでのかなえるナースの経験で実証済みです。

 実際、篠田さんの容態は少しずつ回復。当初は意識がもうろうとして、食事もとれない状態でしたが、ちょっとずつ食べ物も口にできるまでになったとのこと。娘さんから結婚式の話を聞いて、生きる気力が湧いてきたようです。

「篠田さんは大丈夫だ」。僕は確信めいたものを感じました。