帳簿や領収書、口座の明細、取引先まで“丸裸”に
これに対して、リョウチョウは脱税者に追徴税を課することが主な任務となる。マルサの強制調査に対して、リョウチョウは任意調査。だが、税務関係者にとって、リョウチョウはマルサと同様に恐れられているという。その理由を都内の税理士がこう語る。
「リョウチョウには『質問検査権』があり、要求された資料の提出は拒否できないので、実質的に強制調査と変わりません。帳簿や領収書はもちろん、銀行口座の明細から取引先まで"丸裸"にされます。実査官による容赦無い調査が1週間以上続くこともありますし、リョウチョウの調査を端緒にマルサに引き継がれて、刑事事件になるケースもある。"泣く子も黙るリョウチョウ"と言われるゆえんです」
つまり、管轄の税務署が定点観測的に税務調査に入るのと、リョウチョウが脱税を想定して調査に入るのは全く意味合いが違うのだ。
関係者の取材によると、女子医大はリョウチョウから7月に税務調査を行うと通告を受け、担当の税理士を国税局出身の税理士に交代、8月に調査の延期を要求したという。
結果として、7月20日に5人の実査官が女子医大に調査に入ったが、翌日は特に動きを確認できなかった。外形的には、調査を縮小したようにも見える。
調査の延期要請に応じず、7月に調査に入った「強い意志」
東京国税局資料調査課に在籍して、大型不正事案などの調査を手がけた佐藤弘幸税理士は、元リョウチョウの視点で、今回の経緯を次のように分析した。
「リョウチョウは、女子医大の都合に一定の配慮をしたようですが、元国税局の税理士を女子医大が起用したから手加減したわけではありません。
肝心なのは、8月に調査を延期するように要請されながら、リョウチョウが7月に着手した点です。国税は人事異動がある7月に、最重要の案件から着手します。脱税額の多寡、または社会的要請を考慮した結果、女子医大の案件が最も重要だと考えたのでしょう。だから延期の要請には応じず、7月に着手して『調査通知』をしたのだと思います」
リョウチョウが調査を行う際、事前通知の有無にかかわらず、必ず現場で『調査通知』をするが、これには重要な2つの意味があるという。
「調査を受ける側が、先回りして修正申告してしまうと、加算税がかけられなくなりますが、『調査通知』を行った後は、不当な加算税回避ができなくなります。もう一つ重要なのは『調査通知』によって、銀行や取引先の反面調査が可能になることです」(佐藤弘幸税理士)
脱税や不正会計の場合、銀行や取引先に渡ったカネの流れを解明しなければならない。最終的に「誰が利益を得たのか」、それを突き止めるために反面調査が必要不可欠なのだ。