「疑惑のカネ」をめぐり、東京国税局から厳しい税務調査を受けている学校法人・東京女子医科大学(東京・新宿区)。今度は、女子医大病院の集中治療科の医師9人が、一斉退職することが判明した。この影響でICU(集中治療室)が崩壊状態となり、9月からは高度な外科手術や、臓器移植がストップする可能性がでている。

 原因を探っていくと、メール履歴を勝手に調べ上げ、理不尽な懲戒処分を乱発するなど、恐怖で教職員を支配する大学の異常な実態が見えてきた。疑惑追及キャンペーン第5弾の前編は、ICU機能停止の内幕と、患者に与える深刻な影響についてお伝えする。(後編#6を読む/最初から読む:東京女子医大の闇 #1 #2 #3 #4

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前代未聞の非常事態「ICUがないなら、もう移植のオペはできない」

 8月6日午後4時、「赤い巨塔」と言われる彌生記念教育棟の会議室に、ICUと関係する診療科の医師たちが集められた。“見張り役”職員が入り口に立つ、異様な雰囲気だったという。

 今年4月に病院長に就任した板橋道朗氏は、衝撃的な事実を伝えた。

 “ICU担当の集中治療科教授ら9人のドクターが、一斉に辞めることが決まった。9月以降、残るのは後任の教授1人になるが、ICUは継続させたい。補充スタッフを探しているが、今後について各診療科の意見を述べてほしい──”(※発言要旨)

 この問いかけに、しばらく誰も口を開かず沈黙していたという。

 新型コロナウイルスの感染拡大で、一躍注目されたICU。「Intensive Care Unit」の略称で、集中治療室のことを指す。

 平常時のICUは、外科手術を受けた患者を人工呼吸器やECMO(体外式膜型人工肺)などを使って、24時間体制で管理するのが主な役割である。心不全や呼吸不全など、内科系患者の急変にも対応する。大学病院にとって、患者の命を守るために必要不可欠な存在がICUなのだ。

ICUのスタッフ(女子医大HPより※一部加工)

 そのICUが9月以降、専任医師が1人になるというのだから、前代未聞の非常事態である。しかし、板橋病院長の言葉からは、危機感が伝わってこなかったという。

「なぜICUのドクターが一斉に辞めるのか、9月以降はどうするのか、と質問した先生(医師)がいましたが、病院長から明確な答えはありませんでした。9人の退職まで1カ月を切っている状況なのにノープランだったので、教授の1人は怒りを露わにして『ICUがないなら、もう移植のオペはできない』と吐き捨てるように言っていました」(A外科医)

「再び重大な事故が起きたら、女子医大病院は完全に終わる」

 都内には、数多くの大学病院が存在するが、他では対応できない難しい外科手術を女子医大が引き受けてきた実績がある。特に小児の外科分野では、海外で腕を磨いたトップクラスの外科医が揃う。しかし、ICUが使えないとなると、これまでと同じように子供の命を救える保証はない。

ICUの様子(女子医大HPより*一部加工)

「ある先生から、各診療科の交代制でICUを担当する案もでましたが、専門が異なる患者の集中治療など、絶対に無理です。そうなると、各科で自分たちの患者に対応するか、手術自体を縮小するか、どちらかです。ICUがない体制で、再び重大な事故が起きたら、女子医大病院は完全に終わる、と言っていた人もいました」(B外科医)