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東京女子医科大学病院の「ICU崩壊状態」を招いた、患者の命を軽視した経営方針と恐怖政治

東京女子医大の闇 #6

2022/08/19
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 集中治療科の医師9人が一斉退職することが決まり、ICU(集中治療室)が事実上の崩壊状態になる、東京女子医科大学病院。9月から移植など高度な外科手術がストップするなど、東京都民の命が脅かされる可能性が高い。取材の結果、患者の命を無視した経営方針と、職員の医師たちを恐怖で支配する女子医大の異常な実態が見えてきた。

 疑惑追及キャンペーン第5弾の後編は、複数の女子医大関係者の証言によって、前代未聞のICU崩壊状態に至る内幕を告発する。(前編#5を読む/最初から読む:東京女子医大の闇 #1 #2 #3 #4

※女子医大は教職員に対して、メディア取材に個別対応すると懲戒処分を行うと通告している。そこで本記事は個人の特定を避けるために、複数の職員の証言を区別せずに表記した。

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死亡事故の再発防止策「小児ICU」を託されたのはカナダの大学で活躍していた専門医のA氏

 女子医大「ICU崩壊状態」の原点、それは、苦労して設立した集中治療科の「小児ICU」チームを8カ月で解散させた、経営陣の不可解な対応にあった。

 そもそも小児ICUが設立されたのはある重大な事故がきっかけだった。2014年、当時2歳の孝祐くんが、女子医大病院の耳鼻咽喉科で手術を受けた後、鎮静薬プロポフォールを過剰投与されて死亡したのである。医師の間で情報が共有されず、責任の所在が不明確だったことなどが原因だったとされる。

2014年にプロポフォールの過剰投与で亡くなった孝祐くん(当時2歳)(遺族提供)

 第三者委員会は、再発防止策として、8つに分散していた「ICUの集約化」、そして「小児ICUの新設」(医療機関での呼称はPICU)などを提言した。女子医大はまずICUを集約化してから、次に小児ICUの設立に向けて動いた。

「小児の集中治療専門医はとても少なく、カナダの大学で活躍していた日本人のA氏に白羽の矢が立ちました。2020年1月、A氏に一時帰国してもらい、岩本絹子理事長との面談を経て、小児ICUの責任者(特任教授)として内定したのです」(女子医大関係者)

経営陣は小児ICUが救った子供の命にあまり関心を示さなかった

 ただし、A氏が赴任する上で、解決しなければならない問題があった。一般病院の5割~7割程度といわれる、女子医大の低い給与体系だ。

「女子医大の医師は、低い給与を補うために週1~2回、他院でアルバイトをしています。しかし、小児ICUは24時間体制の勤務なので、アルバイトが難しい。それで、A氏は一時帰国した際、一般病院並みの給与を保証してほしいと岩本理事長に相談して、その場で了承されたそうです」(同)

 こうして2021年、A氏はカナダから帰国し、集中治療科の小児ICU特任教授に就任した。6人の小児ICU専門医と専属の看護師が集まり、7月に小児ICUが始動する。

小児ICU(PICU)は、2021年7月にスタートした(Facebookより)

 すぐに成果は現れた。新型コロナで重症になった小児の患者を引き受け、全員が元気に退院。さらに、心臓移植を待つ小児患者など、全国各地から重症の子供たちを次々と受け入れていく。

小児ICUでのECMOのトレーニング(Facebookより)

 だが、経営陣は小児ICUが救った子供の命にあまり関心を示さなかった、と関係者は証言する。

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