リーダーを失った小児ICUチームは“解散”
この一方で、丸学長はA特任教授に対して、「令和4年度の契約は更新しない」と言い渡していた。
A特任教授は、辞表を提出せざるを得なかった。だが、筆者が入手したA特任教授の辞令に、任期は「令和5年3月31日」までと記されていた。つまり、女子医大は任期を1年残して、A特任教授に事実上の解雇通告したことになる。
リーダーを失った小児ICUチームは、医師全員が辞職や異動したことで“解散”となった。
「小児ICUは、幼い命に対する重い責任を背負っていました。同時に、女子医大にしか救えない重症の子供たちの命を守るという、使命感もありました。こうした現場のことを、経営陣は何も理解していなかった。ただ気に入らないから壊した、としか思えません」(女子医大関係者)
経営陣の「患者の安全性を軽視した判断」
経営陣の暴挙は、これだけではない。集中治療科のホームページを担当する医師が、「小児集中治療専門医は全員退職、2022年2月末で小児ICUの運用は停止」とサイトに記したところ、これが問題だとして、女子医大は、医師に「降格」の懲戒処分を行ったのである。なぜ医師は処分の対象となるのか──。
「経営側にとって都合が悪かったのです。女子医大が多額の貸付を受けている福祉医療機構(厚労省の関連団体)などに、A特任教授らが辞表を出した後も『小児ICUは維持していく』と説明していたので、整合性がとれなくなりますから」(同)
野村教授はこの件に関連して、メール履歴を勝手に調べられ、部下の監督不行き届などの理由で、「減給」の懲戒処分を受けた、と関係者は語った。
「みんな恐怖政治に怯えています。女子医大の内部監査室に警察OBを雇って、メールの内容まで勝手にチェックするなんて、教育機関とは思えません」(同)
事実上の“ICU崩壊”が迫る中、8月16日に行われた女子医大病院の会議で、板橋道朗病院長は当面の方針を示した。
「9月からICUに入室した患者は、各々の診療科で責任を持って管理する。何かあったら、麻酔科と救命救急センターの先生が駆けつける体制を継続する。安定するまでは、リスクの高い症例は控えてもらう。一致団結して、安全な集中治療体制を維持していきたい」
各診療科で対応という苦肉の策で、体面上は“ICUを維持”するという。これに対して、現場の医師たちからは疑問の声が相次いだ。
「移植でかなりICUを使っていたので、これから患者を救えなくなるかもしれない、と本当に危惧している」
「大半が集中治療に慣れていないので、今までのようには対応できない。高度な医療をすると、事故を起こす可能性がある」
「小児ICUも潰されてしまった。スタッフが減る予定で、当直が回せるかどうか本当にギリギリ。ICUを診ろと言われると厳しい」
また、板橋病院長は、7月半ばに野村教授が辞表を提出するなど、動きが急激だったので(後任などの準備が)間に合わなかったと会議で説明した。だが、内情をよく知る関係者は次のように証言する。
「後任の医師を探す時間をつくるため、野村教授は6月に辞表を提出した、と聞いています。けれども経営陣は、医師を確保できず、最近までICUに最も関係する外科にも知らせませんでした。9月に移植手術を予定している診療科は大混乱です」(女子医大関係者)