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国内屈指のICU、治療する患者数は年間3000例以上

 実は、女子医大にとって、ICUは重い責任の象徴である。

 2014年、耳鼻咽喉科で手術を受けた2歳男児が、中央ICU(当時)で人工呼吸器の管理中、禁忌とされていた鎮静薬・プロポフォールを過剰に投与され、死亡する事故が起きたのだ。

 外部の専門家による事故調査委員会は、再発防止策として、当時は8つに分散していたICUを統一すること、小児ICUの設置などを提言した。

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 これを受けて女子医大は、2017年に8つのICUを2カ所にまとめ、計33床を備えるICUの運用を開始する。集中治療科教授に就任した野村岳志氏は、9人の集中治療専門医を集め、治療する患者数は、年間3,000例を超えるまでになった。治療の質と患者数で、名実ともに国内屈指のICUになったのである。

ICUの内部(「女子医大便り 2017年秋冬号」より)

 患者や家族からの信頼も厚い。2017年、女子医大で息子の刀柊さんが腎臓移植を受けた井上香月子さん(京都在住)は、ICUスタッフの献身ぶりが強く印象に残っているという。

「息子は基礎疾患をもっていたので、ハイリスクの移植手術でした。それで一般病棟ではなく、ICUでお世話になったのですが、看護師さんたちは、精神的に不安定になった息子に一晩中寄り添って、支えてくれました。そのICUが無くなるなんてショックです」

移植手術を受けた井上刀柊さん。ICUから一般病棟に移された直後(ご家族提供)

ICUが事実上の崩壊で脳死移植が完全ストップか

 ICUでの管理を必要とする外科手術として、臓器移植が挙げられる。特に女子医大は、1970年代から臓器移植の分野で常にリードしてきた。腎臓の生体間移植では、143症例(2020年)で国内トップ。さらに脳死の臓器移植では「心臓、肝臓、膵臓、腎臓」に対応する施設として認められた、数少ない大学病院でもある。

 しかし、ICUが事実上の崩壊となると、脳死移植が完全ストップする可能性が高い。女子医大の外科医が解説する。

「臓器移植は、手術後の管理が生着率(移植の成功率)に大きく影響します。脳死移植の場合、厳格な施設基準が定められており、ICUの存在は絶対条件。つまり、ICUが事実上の崩壊となるなら、脳死移植の施設としての認定は、返上しなければなりません」

ICUの機器(写真はイメージ)

 脳死移植を希望する場合、患者は移植施設(病院)を指定して、登録するシステムになっている。女子医大では「心臓、肝臓、膵臓、腎臓」の移植を希望する患者が登録をしているが、命の危機が迫っている人が大半を占める。今後、女子医大が、脳死移植の施設としての認定を返上するとなれば、大混乱に陥るだろう。

 女子医大のICUが事実上崩壊することについて、日本医学会と日本臓器移植ネットワークの会長を兼任する門田守人氏は驚きを隠さず、次のように述べた。

「高度医療を行う大学病院でICUがないというのは異例なことですね。特に、心臓、肝臓、膵臓の移植手術は、ICUが機能していない状態で手術に踏み切ることは考えられない」