これまで明らかにしてきた3つの疑惑を振り返る
課税第二部のリョウチョウは、悪質、大口(脱税金額が大きい)と思われる、200以上の企業や公益法人などを常に調査対象として選定しているという。
そんなリョウチョウが、東京女子医大に調査に入ったのはなぜなのか? 筆者は週刊文春と文春オンラインで東京女子医大の「疑惑のカネ」を追及してきたが、今回の調査は一連の報道も影響していると考えられる。そこで、これまで明らかにしてきた、3つの疑惑の焦点について振り返りたい。
第1の疑惑は「出向職員の水増し、架空請求の疑い」である。
岩本理事長は、2014年から女子医大の経営の実権を握ると、2015年から2019年まで、自身が会長を務める同窓会組織「至誠会」が運営する「至誠会第二病院」から、職員を出向させていた。費用総額は、5年間で約2.5億円。職員の中には最大で月額100万円の水増し請求や、契約上は支給されないはずのボーナス約1600万円が支出されていたことが取材で判明した。
第2の疑惑は「公私混同の契約」だ。
大の宝塚ファンである岩本理事長は、親交の深い元月組トップスター・彩輝直の親族企業である、株式会社Kenneth&Sergio(以下、ケネス社)と、2020年に業務委託契約を交わした。支払った費用総額は1億円超。取材に対して女子医大は、契約に必要な稟議書がなかったと認める一方、契約自体は正式に承認を受けたと主張した。これに関しては、偽装工作ともとれる新たな事実も判明しているので、別項を立てて詳報する。
さらに岩本理事長は、自身の甥を専属運転手としてケネス社に業務委託していた。これらの契約は、週刊文春の報道直後に、ケネス社の申し出によって全て解除されている。
第3の疑惑は、「嘱託職員に対する給与と謝礼の二重払い」。
岩本理事長の主導で、女子医大は校舎や病棟などを次々と建て替えているが、これに伴って大手設計事務所を退職した一級建築士を嘱託職員として採用した。この人物に「値引き交渉や施工管理の対価」の名目で、"総額2.5億円の謝礼"を給与とは別に支払っていたのだ(2018年~2019年)。
これに関して取材で指摘したところ、「最終的に謝礼から給与を引いて相殺した」と女子医大は説明したが、謝礼自体が相場よりも極めて高い。加えて、給与と謝礼は所得区分が異なるので、2年間に跨って「相殺した」という主張には無理がある、と専門家は指摘する。
リョウチョウの調査手法は、これまで秘密のベールに包まれていたが、佐藤税理士がその一端を明かしてくれた。