不動産業界には「千三つ」という言葉がある。「家がほしいという話が千件あっても、契約に至るのは三件」というビジネスの厳しさを表した慣用句だが、もう一つの意味が存在する。「千の言葉の中に、真実はたった三つ」――嘘をつくのは日常茶飯事、正直者がバカをみるのが当たり前だというから驚きを禁じ得ない。

『正直不動産』(小学館)は、そんな闇をはらむ不動産業界を舞台にした痛快喜劇。2017年に青年漫画誌「ビッグコミック」で連載開始、今春には山下智久主演で実写ドラマ化された話題作だ。担当編集者・田中潤さんの実体験が、連載立ち上げのきっかけになったという。

©大谷アキラ・夏原武・水野光博/小学館「ビッグコミック」連載中

仲介手数料の落とし穴

「原案の夏原武さんは裏社会、特に裏経済に造詣が深く、詐欺師を食い物にする詐欺師を主人公にした『クロサギ』という作品でもご一緒しました。そんな夏原さんのスペシャリティを活かした新連載を立ち上げたいと思っていたところ、たまたま私自身が不動産取引をしたんです。自宅マンションを売却しようと街の不動産屋にお願いしたら、幸運にもすぐに買い手が見つかって。

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 そんな経緯を不動産関係の仕事をしている親戚に話したところ、『仲介手数料は3%も払う必要ないから。1.5%で十分』と言われたんです。要するに、400万円を超える物件の場合、不動産屋が受け取る仲介手数料は『成約価格の3%+6万円+消費税』が“上限値”と法令で定められている。それ以上は取っちゃいけませんよ、ということなんです。実際に親戚の助言にしたがって不動産屋と交渉してみたところ、なんと手数料が半分になってしまった。100万円単位の金額が知識ひとつで変わってしまうことが非常にショッキングで。同時に、これを漫画にしたら面白いのではないかとひらめいた瞬間でした」

©大谷アキラ・夏原武・水野光博/小学館「ビッグコミック」連載中

不動産トラブルを目の当たりにして…

『正直不動産』には3人の作者がいるという点で、一風変わっているという。原案の夏原武さんが不動産業界の実情を取材、その情報をもとに脚本の水野光博さんがシナリオを書き、それを漫画という形でアウトプットする部分を大谷アキラさんが担っている。

 そんな三位一体の創作体制から生まれたのが、嘘がつけない不動産営業マン・永瀬財地というキャラクターだ。口から出まかせで顧客を騙し、営業成績を上げようとする――あくどい営業スタイルを地で行く男が、ひょんなことから祟りに遭い、嘘がつけない体質になってしまう。正直営業せざるを得なくなった永瀬の奮闘がコミカルに描かれる。