室内の異様な光景
我々3人以外誰もいないようだった。
目が慣れてくると異様な室内に気づいた。窓がないのである。いやあるのだが、黒いビニール袋で完全に目張りされ一切外も見えない、外光も入らないようになってるのである。床はなく、地面に直接木製のテーブルが置かれその上には食器や食材のタマネギやジャガイモなどが乱雑に並べられ、椅子が4脚、冷蔵庫やコンロ、電子レンジらしき家電も見える。壁際にはカップスープも積まれていた。
「部隊は夜になれば、帰ってくる。それから明日の作戦終了まで行動をともにしてもらう。あと、携帯電話は今はいいが、作戦中はフライトモード(機内モード)にするように、忘れずに!」
それにしても、ありがたいといえばありがたい。こんな国境近くでもワイファイのアンテナが立っており、インターネットにつながるのである。あっ、これがかの有名なスターチャンネルでなくて、スターリンクのおかげや! このIT原始人のワシもスターリンクの恩恵をこうむる時代になったんや。
スターリンクとはウクライナの奮闘を気概に感じたあの宇宙開発事業スペースXの社長であり、電気自動車テスラの共同創設者でもあり、大資産家のイーロン・マスク氏がウクライナの民のために開放した衛星通信システムである。これにより、ウクライナほぼ全土で衛星経由でインターネットへの接続が可能になったのである。ただで。
ドローン情報小隊とともに
意外である。最前線はすぐそこのはずである。なのに静かなのである。しかし前線と聞いて覚悟していたが、意外と過ごしやすそうである。この地べたにそのまま寝られるよう、マットも寝袋も持参してきたし。
ウクライナのこの季節は20時過ぎてもまだ明るい。しかし部隊はまだ帰ってくる気配はなかった。
21時過ぎ、意外にも室内には薄暗いが灯りが点けられた。それでも一切外に灯りが漏れないよう目張りされているのであろう。唯一の出入り口も国境と反対の西向きであるし。
外で車が止まる気配がしたと同時に、声はしないが複数の人間が降りてくる気配がした。素早くドアが開け放たれると複数の完全武装のウクライナ兵が身を滑らされるように室内に入り込むやいなや、皆小銃を壁に立てかけると同時に装備を解きだす。
カラシニコフ(小銃)から弾倉を抜き取り、薬室内に残弾がないことを確認するため、ボルトを引き、いったんドライファイアー(空撃ち)を試みるガチャガチャガチンという金属音がこだまする。皆慣れた手つきというか銃の基本操作もしっかりしている。相当訓練と実戦経験を積んでいるのが見てとれた。防弾チョッキを脱ぎ捨てるやいなや、やっと深くため息をつきだした。
そしてやっと、スラバやワシらに気づいたように、笑顔がこぼれた。
「今日も生きてたか?」
「ああ、しぶといぜ」
スラバとハグしあったあと、皆に「聞いてた通り、日本のジャーナリストだ」と紹介された。全体の部隊の規模は明かせんが、この宿舎だけで5人から10人が寝泊まりし、ここの部隊はドローン情報小隊であった。