枕元にはカラシニコフ(小銃)を立てかけ…
さすが兵としての基本サバイバル訓練済みである。しかしこっちもここへ来た時からロシア国境が東側という文字通り生命線となる方角は確認している。
「それじゃあカシオペア座はどこだ?」
「小熊座は? 今日ははっきり見えるぞ」
「それより、この中にもイーロン・マスクの打ち上げたスターリンクの衛星があるのか? どれや?」
「……」
宿舎に帰るや皆、半長靴を脱ぎすぐに2階に上がっていった。2階は小部屋が2つ、そこにマットと寝袋を並べ雑魚寝である。ユルゲンのみ廊下で1人寝だが、皆ホンマに枕元にカラシニコフに弾倉はめたまま立てかけている。これじゃあ寝相悪いやつに蹴とばされて顔面に倒れてきたら血まみれ……いや暴発でもしたらどないするんであろうか?
不肖・宮嶋も最前線には荷物は最低限にした。電源も水道もないと思うていたので、充電器も洗面用具もなしである。もはややることは何もない。すでに歩哨を残し全員が寝袋に潜り込んでいる。5月になってもこのあたりは夜は冷える。すぐにあちこちからいびきのうなりがあがり始めた。
ドローンの大敵
午前6時、夜明けとともに目覚めた。ぼちぼち皆もお目覚めのようで、寝袋を片付けだしたり、横になったままスマホを見つめたりしている。ホントすごい。前線までワイファイ電波が飛んでいるのは。
1階に降り、半長靴の紐を結び直し、外の新鮮な空気を吸いに出る。
「え?」
雨が降っとる。しかも結構本降り。何やったんや? 昨夜の満天の星空は?
こりゃあ初の前線取材は苦労するわ。雨と雨無しでは撮影の苦労は段違いである。防弾チョッキに加え雨具も必要になる。
小隊長のユルゲンも起き出してきた。雨音を察するや、「しばらく待機」の命令を下した。
浮力を軽量な回転翼で得ているドローンにとって雨は敵以上の大敵である。肝心の目となるレンズが濡れると十分な解像度も得られない。
朝食も夕食と同じ指令部まで出かけ、パンと作り置きされていたスクランブルエッグとハムでサンドイッチをつくり、ほおばり、コーヒーでのどの奥に流し込む。宿舎に戻って雨が降っても、やることはある。射撃訓練に武器の手入れや装備の確認である。特にドローン情報小隊の唯一の武器となるAK-47小銃、通称カラシニコフは毎日の手入れにおこたりない。
皆、食後の腹ごなしとばかりに、手慣れた手つきでカラシニコフを分解してはオイルを差し、銃身にウエスを通し、火薬カスや汚れをふき取っては組み上げる。最後はボルトを引き、地面に向け引き金を引き、ドライファイアーをする。バチン! という撃鉄が落ちる音で作動が正常なのを確認する。銃の手入れの仕方、その状態を見ただけで、その部隊の精強さや練度が計れる。銃に錆が浮いていたり、やたら引き金に指をかけ撃ちまくる軍隊はロクなもんでない。
そして彼らドローン小隊が愛用するカラシニコフこそ人類史上最高の小銃(アサルト・ライフル)と言われる。1946年ソ連の元戦車兵ミハイル・カラシニコフによって開発されソ連軍に正式採用されて以来、70年以上世界の戦場で使われ、ギネスブックにも最も大量に生産された軍用銃として掲載されているぐらいである。まさにジャングルから砂漠まで少々泥に濡れても、砂を噛んでもちゃんと作動する。
構造も単純で安価、掃除も楽と、まあ世界のテロリストにも愛用されてきたぐらいである。ユルゲン小隊も隊長のユルゲンだけはサープレッサー(消音器)付きだが、全員がカラシニコフである。
記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。