不肖・宮嶋、ウクライナ軍のドローン小隊に従軍
そんなウクライナ軍のドローン小隊に不肖・宮嶋、当初は2日間従軍を許され、彼らと寝食をともにし、機会あれば最前線まで出向き、弾丸の下もともにくぐることになる。
不肖・宮嶋が取材を許されたのはウクライナ軍第93旅団長だったエフゲン大佐、通称「アダム」が指揮を執る第10大隊を基幹に新編された、戦車、砲兵、歩兵部隊を統合した部隊隷下のドローン情報小隊であった。
管轄する地域はハルキウ市北東部とロシア国境地帯、司令部、宿舎ともハルキウ市北部の集落にあるが、指令部の外観や内部の撮影は一切認められなかった。そしてこのドローン情報小隊の任務は国境付近の森林に進出、3機以上のドローンを駆使し、索敵(敵の捜索)、射撃誘導、着弾観測を担うという、まさに統合部隊の目となる最も重要なものとなる。
ウクライナ軍が使用するドローンにもトルコ製の対地ミサイルまで搭載できる攻撃型、またはそのまま敵陣に突撃する自爆型等あるが、ドローン情報小隊が扱うのは中国製の偵察型。小隊全員がドローンパイロットかつ情報処理の専門家かつ兵士でもある。
主なメンバーは小隊長のユルゲン、ここまで案内してくれたスラバ、陽気なマックス、冷静なほうのもう1人のマックス、一番若い、いつもイヤーマフを手放さない変わり者のジェイナであった。
「さあ、遅くなる。夕食をとろう。指揮官がいれば、紹介する」
ユルゲンの案内で宿舎をでる。村中真っ暗、灯りが一切ない。しかしそのかわり降ってくるような星空である。その星灯りと赤いフィルターをかけたフラシュライト(軍用懐中電灯)だけを頼りに草深いあぜ道や砂利道を歩くこと数十分、警備の歩哨が立つ宿舎より二回りほど大きな屋敷に着いた。
金属製のドアを開けて中に入ると中2階に上がる階段、その脇にドアを押し開けると車3台は入りそうな駐車場、それが今薄暗い中、机や椅子が並べられ、その上には通信機器やモニターがズラリ並んでいた。中にはいったユルゲンがすぐ出てきた。
「指揮官は出てる。紹介はまた明日だ。早くメシにしよう」
ここが指令部であった。
「おい! 北はどっちだ?」
20畳ぐらいのかなり広いダイニングルームと居間からかなりの資産家……いや地元実力者か庄屋さんみたいなのがオーナーやろかと思うたら、外国人が家主であった。宿舎も同じオーナーであった。オーナーはこの戦時下も故国へ逃げ出さなかったというから、よっぽどの事情があったのであろうが、今も1階をウクライナ軍へ提供し自分は2階で肩身狭く……というほどではないが、不便な生活に耐えていた。
食事は各自、時間が空いた時にここダイニングルームを訪れ、スープなどを温めなおしたり、パスタをゆでたりしたあとは、あっという間に終える。
不肖・宮嶋もご相伴にあずかったが、見た目も味もなかなかであった。もちろん指令部に来られないほどロシア軍の攻撃が激しくなった時も、各宿舎に非常食の備蓄はあった。
夕食を終えると皆すぐに数十分かけて歩いて宿舎に戻る。ホントに星明りだけで歩ける。皆地雷原がこのあたりにはないと知ってか、星空を見上げている。小隊のほぼ全員が英語を話し、宿舎への帰路は星座の逸話で盛り上がった。
「おい! シゲキ! 北はどっちだ?」
皆ここでは「日本人」とでなく、すぐ名を覚えてくれた。