しかし、もしかしたら見間違えたのかも知れないと思いました。少しお酒も入っていましたし、時々布団が盛り上がっていて、人の形の様に見えて、驚いた経験もありました。そうだ、目の錯覚に違いない。今日は酔っているのかな。私は再び寝室へと行きました。
静かに扉を開けて、ベッドの方をよく見て息が詰まりそうになりました。やはり誰かが寝ているのです。意を決して私はベッドに近づいて、寝ている人の顔を確認してみようとしました。
ベッドに寝ているのは、寝間着を着た痩せ細った男性でした。見間違えなどではなく、はっきりと人が寝ているのを確認しましたので、部屋を出ようとしたその時です。
ベッドに寝ていた男性は、カッと目を見開き、私を見たのです。そして「ヒック、ヒック」としゃっくりを始めたのです。
私は恐怖のあまり、身動きができなくなりました。
「しゃっくり男」の正体は
すると男性は「ヒック、ヒック…ヒック……ヒック………ヒッ」と言って、首をガクリと横に向けました。それと同時に消えてしまいました。
そこで気がついたのですが、あの男性の「ヒック、ヒック」という声は、しゃっくりではなく、呼吸をする音だったのではないでしょうか。
実は以前このマンションは病院だったんです。だからあのしゃっくりだと思っていたのは、息を引き取る直前の息遣いだったと思うのです。
私は寝室に入る事が出来ず、朝になるのを待って、三木住職に電話をしたんです。
* * *
オーナー様の話を聞き終わると、新婚のご夫婦も納得された様子でした。どうやら霊的な事を信じないオーナー様は、地鎮祭などを怠っておられたようです。
そして、この日、4人そろってお経を挙げました。
別れ際、新婚ご夫婦の奥様が、こんな事を聞いてこられました。
「あの男性の方は、何故私の所に来られたんでしょうか」
「正直、私には分かりません。ですが、目に見えない物を信じる気持ちがおありだからでしょう。ただ確実に言えることは、その奥様のお陰で、あの男性は供養を受けることが出来ました。男性に代わってお礼を申し上げます。ありがとうございました」
そう言って、私が頭を下げると、ご主人もオーナー様も、一緒に頭を下げてくださいました。