私たちの4人に1人は、うつや強い不安といった精神的な不調を経験すると言われている。これほど快適に暮らせるようになった現代社会において、なぜ多くの人が精神的な問題を抱えているのだろうか?
ここでは、自著『スマホ脳』が世界的なベストセラーとなった、スウェーデン出身の精神科医、アンデシュ・ハンセン氏の最新作『ストレス脳』(久山葉子 訳、新潮新書)から一部を抜粋。SNS利用の多い10代の女子を襲う、デジタルライフの問題点を紹介する。(全2回の1回目/2回目に続く)
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女子を襲うデジタルライフの問題点
あなたが大人なら、1日に平均3~4時間をスマホに費やしているはずだ。ティーンエイジャーならば5~6時間。つまり起きている時間から学校を除いたほぼ半分だ。デジタル化は人間の歴史において最速の行動変容だった。それが精神の健康にどのような影響を与えるかは重大な問いだ。中でも大きな影響を理解するために、今書いた数字以上のものは必要ないだろう。1日は24時間しかないのに画面の前にいる時間が何時間も延びるということは、その分だけ他のことをする時間が失われる。
実際に人と会ったり、運動をしたり、睡眠をとったりする時間も減る。だから14歳の1日平均歩数が今世紀の初めに比べて男子で30%、女子で24%減ったのは驚くことではない。同期間に、不眠で受診し睡眠薬を処方されたティーンエイジャーが10倍近くに増えたのが現実だ。
精神の健康を考えると、一番問題なのはスマホではなく、他のことをする時間がなくなったことだ。精神の不調を防ぐ要因である睡眠や運動、実際に人と会うといったことが、デジタル化の進むライフスタイルに侵食されてしまっている。しかし、画面の前に長く座っていること自体が危険なことなのだろうか。
現在の私たちが20~30年前に比べて精神状態が悪くなっているとは断言できない。しかし1つだけ例外があって、それはティーンエイジャー、中でも女子だ。その層において精神的不調は明らかに増えている。多数の実例から1つだけ挙げるならば、15歳女子の62%が心配、腹痛、睡眠障害など、慢性的なストレス症状を訴えている。1980年代に比べると倍以上の数だ。男子だと35%、それも1980年代から倍に増えている。同様のネガティブな傾向が多数の国で確認されている。