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「常にインフルエンサーの成功を見せつけられている」10代女子の精神的不調が激増中…世界的精神科医が指摘する“SNSの問題点”

『ストレス脳』より #1

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成功している人のアピールによって、精神状態が悪くなるリスク

 地位が下がったと感じるのはこれまでも同じだったと思うかもしれない。それは確かにそうなのだが、今の私たちのように起きている時間の半分もそんな情報にさらされているわけではなかったし、完璧な演出がされていたわけでもなかった。友人が修整して投稿した写真を次々と見せられるばかりでなく、何千人、何万人というインフルエンサー、つまりお金をもらって素晴らしい人生をアピールしている人たちの存在によって、自分では達成不可能なレベルにゴールが設定されてしまう。

 私たちは文字どおり1分ごとに自分より素敵な人、賢い人、リッチな人、人気のある人、成功している人がいることを思い知らされる。そのため常にヒエラルキーの下へ下へと落ちていくように感じるのだ。精神状態が悪くなるリスクはそこにある。

 ヒエラルキーにおける地位を確認するのをやめられないのは、脳が孤独を避けたいためだ。集団から追い出されないように、脳は常に「自分はこのグループに馴染めているだろうか」「こんな自分で大丈夫だろうか」「この集団に受け入れてもらえるくらい自分には価値がある? 賢い? 面白い? 美しい?」と問い続けている。今の私たちは同じ問いを、脳が進化したのとはまったく異なる環境下でぶつけることになる。私たちのカロリー欲求がカロリーに乏しい世界で何十万年も過ごした上で進化したのと同じことだ。カロリーが無料同然の今の世界では壊滅的な影響を受ける。

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写真はイメージです ©iStock.com

 他人と比較したい欲求もまた、少人数のグループで暮らしていた世界で培われた。「自分には充分な価値がない」とエンドレスに感じ続ける状況に置かれたら、私たちの情動に影響が出てしまう。具体的にどういう影響なのかはまだ確実にわかってはいない。ソーシャルメディアの影響に関する研究は始まったばかりだからだ。

 それでも、多数の研究で判明していることがある。1日に4~5時間をソーシャルメディアに費やす若者は、自分自身に不満を抱えていて、心配や気分の落ち込みを感じている。一方で、ソーシャルメディアが私たちに及ぼす影響を研究するのは困難でもある。理由の1つは、企業側が情報を公開しようとしないことだ。

 2021年の秋、フェイスブック社の研究者らが「フェイスブック社のアプリ、インスタグラムによってティーンエイジャーの女子の3分の1が自分の身体をネガティブに受け止めている」という警告を発していたことがわかった。彼らはまた、「ティーンエイジャーの自殺念慮の6~13%がインスタグラムに起因する可能性がある」とも把握していた。ところがフェイスブック社はその警告を無視したばかりか、世間から隠していた。

 しかし、ソーシャルメディアへの反応には個人差があることも指摘しておく。全員が精神状態を悪くするわけではない。影響を受けるリスクが一番高いのは神経症的傾向の強い人々、つまりネガティブな刺激に特に強く反応する人たちだ。また、ソーシャルメディアを受け身的に使い、他人の投稿を眺めているだけでコミュニケーションを取ろうとしない人たちも同様だ。

 では何に気をつければよいのか。私たちは常にカロリーを欲し、不安を抱えがちな人の子孫というだけでなく、必死で集団に属していようとする人の子孫でもある。それなのに1日に数時間も他人の完璧な人生と自分を比較していれば、脳は「私はヒエラルキーの最下層にいる」というシグナルを受け取ってしまうかもしれない。

 そうすると精神状態が悪くなるリスクが高まる。つまり、そのシグナルをいかに抑えるかだ。ソーシャルメディアの使用を制限する──非科学的なアドバイスにはなるが、1日1時間以内にするというのが私からの具体的なアドバイスだ。そうすれば、強い不安を感じた時に深呼吸をするのと同じように、脳を制御することができる。

ストレス脳 (新潮新書)

アンデシュ・ハンセン

新潮社

2022年7月19日 発売

「常にインフルエンサーの成功を見せつけられている」10代女子の精神的不調が激増中…世界的精神科医が指摘する“SNSの問題点”

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