私たちの4人に1人は、うつや強い不安といった精神的な不調を経験すると言われている。これほど快適に暮らせるようになった現代社会において、なぜ多くの人が精神的な問題を抱えているのだろうか?

 ここでは、自著『スマホ脳』が世界的なベストセラーとなった、精神科医のアンデシュ・ハンセン氏の最新作『ストレス脳』(久山葉子 訳、新潮新書)から一部を抜粋。世界幸福度ランキングの上位にランクインしているスウェーデン出身の著者が説く「幸せの定義」について紹介する。(全2回の2回目/1回目から続く

写真はイメージです ©iStock.com

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多くの人が考える「幸せ」の定義

 なぜ脳は精神的に元気でいるようには進化せず、常に最悪の事態に備え(不安)、場合によっては自分を守るために引きこもらせる(うつ)ようにしたのか。本書の大半を割いてそれを考察してきた。それではここで視点を変えて、何が私たちを幸せにしてくれるのかを考えてみよう。その問いに興味をもつ研究者は増える一方だ(「ポジティブ精神医学」という研究分野で、現在急成長を遂げている)。

「幸せ(Happiness)」という単語でグーグル検索してみれば9億200万件がヒットする。「不安」のヒット数を超える数少ない言葉の1つなのに、その意味を定義するのは難しい。

 多くの人が「幸せ=精神的に元気」だと考えているだろう。常に楽しみ、満足を感じている状態だと捉えているわけだが、研究においては「人生の方向性に対する満足度」と定義される。つまり幸せというのは常に最高の気分でいることではなく、長期的に人生に意義を感じていられるかどうかなのだ。その定義に賛同できて、幸せになるために最大限の努力をしたいなら、一番重要なのは幸せを無視することだと私は思う。幸せなんて気にしていてはいけない。そのほうが幸せになる可能性が高まる。

 脳は何かが起きるのを待っているわけではなく、何が起きるのかを予測している。それからその予測と実際に起きたことを照らし合わせる。例えばあなたが今、自宅でバスルームに入るところだとしよう。入る前にはもう脳がバスルームの記憶を取り出し、自分の知覚が感じるはずのことを心積もりする。

 そして実際にバスルームに入った時には、自分の予測とバスルーム内で見えて聞こえて感じたことを照らし合わせる。あなたが受けた印象と脳の予測が一致していれば何も反応しないが、違っていたとしたら、あなたははっとするはずだ。