スマートフォンの長時間利用が健康に悪影響を及ぼすことが多くの研究により明らかになってきた。一方で総務省の調べによると、インターネットの利用時間(全年代)は5年間で約90分から約120分に増加。なかでもモバイル端末での利用時間が大きく伸びているという。
そんなインターネット利用時間について、子どものスマートフォンの利用時間の長さに大きな警鐘を鳴らすのは、『スマホ脳』の著者である精神科医のアンデシュ・ハンセン氏だ。ハンセン氏によると、発育のために理想的な生活が送れている子どもは20人に1人程度しかいないそうだ。
稀代の脳科学者が語る、子どもが送るべき“理想のスマホライフ”とはどのようなものなのか。同氏の著書『最強脳―『スマホ脳』ハンセン先生の特別授業―』(新潮新書)より、一部を引用して紹介する。(全2回の2回目/前編を読む)
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スマホのえじき
わくわくするようなアイデアを思いついて、それを書きとめようと机に向かったとしましょう。その時に、誰かがおかしとジュースとマンガをわたしてくれました。
「どうしても食べたくなった時はおかしを1個だけ食べていいよ」とその人は言います。「それからマンガは、本当に休憩したくなった時だけ読んでもいいよ」
そしてその人は部屋から出ていきました。あなたはさっきまで集中していたのに、今はおかしとマンガを見つめています。
この後すぐにノートにアイデアを書きとめて、どうしても休憩が必要になるまで集中していられるでしょうか。それはかなり難しいはずです。
最も可能性が高いのは、せっかくのアイデアのことなど忘れて、おかしを食べながら、何時間もマンガを読んでしまうことでしょう。それは誰でもそうだと思います。
それなのに、スマホはすぐそばに置いたままにして、しょっちゅう着信音が鳴ってもしっかり集中出来ると思っている人が大勢います。あなたもそうなら、ぜひこの文章を読んでみて下さい。
ドーパミンのシステム
しつこいようですが、ここでもう一度ドーパミンとごほうびの話をしなくてはなりません。ごほうびのシステム(編集部注:美味しいものを食べたり、友だちと会ったりすることでドーパミンの量が増える=幸せな気持ちになる。ドーパミンで“ごほうび”が与えられることによって、人間は食事や交友関係の構築、つまり人間が生きていくために必要不可欠な行動をとる)は私たちに「良いこと」をさせるためにあります。しかし今の生活のために作られたシステムではありませんから、ろくなことをしていないのにごほうびをもらえてしまうことがあります。
おかしとジュースがその良い例です。どちらもちっとも体には良くないのに、パクパク食べてゴクゴク飲みたいという強い気持ちを起こさせます。それと同じように脳のごほうびのシステムを利用しているのが、スマホです。タブレットやパソコンなど、スクリーンがついていて着信音の鳴るデバイスも同様です。
今の子供や若者は、そういったデバイスの格好のえじきになっているのです。
詳しいメカニズムと具体的な研究結果は『スマホ脳』で紹介していますが、ここでもう少しやさしく説明していきます。