ぼくがスマホを持たなくなってから十年近く経った。スマホを持っていたときの自分は、依存症患者そのものだった。
起きたらスマホ、歩きスマホ、周囲の人との会話の途中でもスマホ、寝る前にスマホ、寝られずにスマホ……「スマホすぎる! もうだめだ!」とブチギレてスマホを捨ててやっと眠ったあと、夢の中でもスマホ。友人たちに「……ちょっと異常じゃない?」とドン引きされ。仕事をすることもままならず、生活苦に陥ったのでスマホを捨ててキッズケータイに変え、今はガラケー+iPod touchに落ち着いている。
そんなぼくがこの本を手に取るのは必然とも言える。
“今あなたが手にしている本は人間の脳はデジタル社会に適応していないという内容だ。”
冒頭からそう書かれている通り、本書はスマホがいかに人間に悪影響を及ぼすかを、さまざまな角度から検討していく。
まずは人類の歴史からだ。遠い昔、人類が生存するために情報は必要不可欠であったが、今のデジタル社会はそれがあふれすぎているという。さらにその情報を得ることで脳の報酬系が刺激され、快楽が発生する。結果的にスマホは最新のドラッグになってしまっていると説明する。
恐ろしかったのは「記憶力の低下」の部分だ。スマホを持つことで「ながら作業」が増えたが、脳はそもそもマルチタスクが苦手だ。細切れの作業をしていると記憶にも影響が出てくるという。うう、これは実感している……。
さらにスマホは睡眠時間、メンタルヘルスにも影響を与え、その上SNSが精神を削る。身に覚えがありすぎてつらい……。
こうした状況は大人であればある程度自制心を持って避けることもできるだろうが、問題は子供にも同じかそれ以上の害があるという部分だ。スマホやタブレットでの学習効果は低く、子供の集中力も減少させる。一日二時間を超えるスクリーンタイムはうつの発症リスクを高めるという。
……ここまで読んだところで、なんだか腹が立ってきた。プラスのデータもあるはずなのに、やたらとマイナス面ばかりが強調されすぎているのだ。これはフェアではない。
スマホにも良いところがあるんじゃない?
しかし、これについても著者は悲観的だ。確かにデジタルが脳にどんな影響を与えているのかの研究は進んでいるが、その結果が出る前にデジタル社会はさらに前進する。だから今、警戒しておけという。たしかにそうなのだが……。
最後に本書はこうしたスマホ社会のなかで、どうすれば健康を保てるかも提示してくれる。結論から言えば、「なんでもいいから運動しろ」である。
みんないますぐスマホに万歩計を入れ――じゃなくて、スマホを捨てて動け!
Anders Hansen/1974年、スウェーデン生まれ。精神科医。経営学修士。病院勤務の傍らメディア活動を続け、前作『一流の頭脳』は世界的ベストセラーに。
うみねこざわめろん/1975年、大阪生まれ。文筆業。2018年『キッズファイヤー・ドットコム』で熊日文学賞を受賞。