日常生活を送る中でのストレス耐性の程度は人により様々だが、「積極的にストレスを感じたい」と考える人はまずいない。しかし、自著『スマホ脳』でスマートフォンが人の脳機能に与える悪影響について説いたアンデシュ・ハンセン氏によれば、適度なストレスは人間のパフォーマンスをベストな状態に保つことに役立つのだという。
ここでは、同氏の新著『最強脳―『スマホ脳』ハンセン先生の特別授業―』(新潮新書)より、“ストレス”の持つポジティブな力について一部を抜粋。ベストなコンディションづくりにも役立つストレスとの付き合い方を紹介する。(全2回の1回目/後編を読む)
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いざという時にベストの力を出す
プロのスポーツ選手は色々なことが得意です。鉄球を遠くまで投げたり、高く跳んだり、くるくる回転して転ばずに着地したり……それもスケートをはいた状態で。しかし大会でメダルを取るような選手は、それとは別のことも得意です。「いざという時に自分のベストを出す」ことが出来るのです。
どうすればそんな風になれるのでしょうか。本番前に適度な緊張と心理的なプレッシャーを自分にかけ、本番が終わればすぐにリラックスした状態に戻るのです。そんなことぐらい簡単に出来ると思うなら、ここはもう終わりにして下さい。しかし普通の人にとっては簡単なことではありません。
まず知っておいてほしいことがいくつかあります。そもそもなぜ人はストレスを感じるのでしょうか。ストレスを感じるなんて無駄なことだと思いませんか? その時、脳では何が起きているのでしょう。それに、どうすればプロ選手のようにストレスに上手く対処出来るのでしょうか。
今までより少しストレスの対処が得意になるように、その方法を身につけましょう。
「ストレス」とは、心や体にかかる負担によって起きる反応です。難しいことや、自分の力で出来るかどうか不安になるようなことを前にすると、やる前から「怖い」という気持ちとして表れることもあります。
ストレスは悪いものではない……?
誰かが突然背後で悲鳴を上げたら、体がすぐに反応するでしょう。悲鳴というのは危険なことが起きようとしている合図だからです。悲鳴を聞くと、脳からの指令を受けて、体が「戦うか逃げるか」の準備を整えます。心臓がドキドキと速く打ち始め、ほんの数秒のうちに血液を筋肉に送り出します。
なぜこんな反応が起きるのでしょうか。理由は簡単です。ヒトの体や脳は、恐ろしい野生動物などの危険に囲まれて暮らしていた頃に発達したからです。危険に素早く反応出来なかった人は、夕食の時間になっても戻ってきませんでした。彼ら自身が動物のえじきになってしまったからです。
今では腹を空かせた恐ろしい動物にばったり会うことはまずないでしょう。しかし他の危険に出合う可能性はあります。例えば広い道路で、バスがすぐそばでクラクションを鳴らしたら、すぐに跳んでよけられるように体がストレス反応を起こすはずです。