8月7日、デンマーク王室は公式Instagramで、クリスチャン王子とイザベラ王女の“進路変更”について異例の発表を行った。クリスチャン王子は超名門ハールスホルム校に通っており、イザベラ王女も同校に入学予定だった。しかし2人ともこの名門校と袂を分かち、王子は公立高校へ転入、王女は別の私立学校へ入学することが決まった。

 実は、ハールスホルム校で「いじめによる性的虐待と暴力行為」が起きたと政府の教育機関の調査で明らかになったのだ。デンマークの“学習院”とでもいうべき名門校で起きた醜聞――。現地メディアも盛んに報じている。一体、なにが起きたのか。

デンマーク王室の面々。左から2番目がクリスチャン王子、その右隣りがイザベラ王女 ©getty

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“ブランド校”に蔓延していた性暴力やいじめ

 同校は、1565年5月に開校したデンマーク最古の寄宿学校で、貴族の子女たちが通う学校として設立されたエリート校だ。数百年間男子校だったが1980年代に完全共学化。学校で寝食をともにする寮生もいれば、自宅から通学する生徒もいる。デンマークで唯一、制服の着用を義務化しているほか、生徒たちはデンマーク語をベースにした独自の単語を使用することで知られている。特別な言葉を使うことで、学校への帰属意識を高めるのだ。

 つまりデンマークにおいて、最高峰の“ブランド校”である。

 しかし、2022年5月5日に放映された同校の問題をとりあげたドキュメンタリー「ハールスホルム高校の秘密」で、何人もの元生徒が校内で起こったセクハラやいじめ問題の実態について告発。放映前に内容を事前に知った学校側は「いじめや暴力の問題については知りません」と発言していたが、同校に蔓延している暴力の実態の衝撃はあまりに大きかった。

 元生徒の一人は、一部の上級生が下級生を殴る儀式が1週間に1度程度行われており、性暴力やレイプ被害もあったとまで明かしたのだ。

ハールスホルム校公式サイトより

 作中では、真夜中に身体中をつかむ、ゲームで負けた下級生を動けなくなるまで殴るなど、悲惨な暴力の実態が元生徒たちによって証言されている。生徒による性暴力やいじめが明るみに出た際にも、警察への通報を行わないなど、学校の対応の不十分さも伝えられた。

 ドキュメンタリーが放映された直後、デンマーク王室はすぐさま「(ハールスホルム校で)起こっていることは許されない」と反応したものの、当初は「王子は素晴らしい経験をしていると聞いている」と、王子の学校への在籍と、王女の今秋の入学は見直さない、という方針だった。

 しかし、デンマークの大衆紙Ekstra Bladet によると、学校側が告発制度をスタートさせると、元在校生本人または家族から1カ月で5件の告発が寄せられたという。

 そうした動きから、6月下旬に王室は方針を転換。王子は別の高校に転校、王女も同校への入学を取りやめる決定を下したのだ。