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アルミのパイプで殴られ、ご飯は凍りかけ、女性は人身売買されることも…脱北に失敗して味わった“地獄の留置所生活”の実態

『僕は「脱北YouTuber」 北朝鮮から命がけで日本に来た男』より #2

2022/08/24

 飢饉、過酷な労働、その他さまざまな理由で、国民が脱出を試みることが珍しくない北朝鮮。韓国統一部が発表した統計によると、2016年時点で、韓国に入国した脱北者の累計人数は3万人を超えたという。

 北朝鮮での生活実態について、日本語で発信を続ける「脱北YouTuber」のキム・ヨセフ氏もそのうちの一人だ。ここでは同氏が自身の過酷な半生を綴った『僕は「脱北YouTuber」~北朝鮮から命がけで日本に来た男』(光文社)の一部を抜粋。知られざる脱北の実態について紹介する。(全2回の2回目/前編を読む)

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はじめて見た北朝鮮以外の国

 一度目の脱北を試みたのは、真冬だった。

 土の表面が凍るほどの寒さだったが、寒さより緊張感のほうが勝っていた。

 中朝国境は、白頭山(ペクトゥサン)を境に東側を流れる豆満江(トゥマンガン)、西側の鴨緑江(アムノッカン)の2つの川によって成り立っている。

 

 この川を渡るのが、韓国への第一歩だ。

 真冬の川は凍りつき、その上を歩いていくことができる。渡るのに適した場所は、ブローカーが知っている。街に近い場所ではなく、人里離れた山の中で辺りが暗くなるまで待機し、ブローカーが北朝鮮側の国境警備隊と電話で連絡を取り、良いと言われたタイミングでいざ、渡る。

 ブローカーは脱北者から受け取った費用の中から国境警備隊に賄賂を渡し、どこの区域で誰が配置されるか、交代時間はいつなのかなどの情報交換をしている。お金はかかるが、ブローカーの密通の相手が上級兵士や将校だと、より安全に脱北を手配できる。将校たちはもちろんバレたら処罰されるが、国家安全保衛部(政治権力のためにある秘密警察で、一般的な警察よりはるかに強い権力を持つ)に賄賂を渡すなどして、うまくやっている。保衛部の人脈がない人は、失敗して刑務所に行くケースもある。

 僕もその算段で、中国に渡る……はずだった。

 北朝鮮では移動の自由がなく、道(地方行政区画。日本でいう都道府県のようなもの)をまたぐ際には許可が必要だ。検問が厳しかったが、国境まではブローカーが用意した偽の旅行証明書で何とか切り抜けた。

 国境地帯に辿り着くと、そこにはこれまで見た世界とはまるで別の光景が広がっていた。