『セイント・フランシス』(8月19日公開)の主演・脚本を手がけたケリー・オサリヴァン。彼女は、グレタ・ガーウィグの自伝的映画『レディ・バード』(2017年)に背中を押された一人だ。同作での女性の描かれ方に感動した彼女は、自身の経験を元に初めて長編映画の脚本を執筆。パートナーで監督のアレックス・トンプソンと共に本作を作り上げた。
「ガーウィグやオリヴィア・ワイルドといった女性の俳優兼監督たちには強く刺激を受けています。過去にも何度か脚本を書こうとしたけれど、長編として完成させられたのは本作が初めて。やはり自分が30代で中絶という体験をしたこと、そして20代の時にナニー(子守)をしていた経験が大きかったですね。この2つを並べれば、女性の葛藤を描きながら喜劇的な要素も加えられるはずだと、どんどん話が膨らんでいきました」
ケリーが演じたのは、パッとしない日々を送る34歳の女性ブリジット。夏の間、レズビアンカップルの家で6歳の少女のナニーの仕事を得たことで、彼女の人生は徐々に変化を迎えていく。
「成長物語はどんな年齢にも当てはまるけれど、特に女性の30代は色んな選択を迫られる時期で、社会的な圧力をたくさん受ける年頃ですよね。実際、私は今38歳ですが母がよく統計を見せにくるんです。『あなたの年齢だと残っている卵子の数はこのくらいで……』とか(笑)」
何より感動するのは、ブリジットが体験する妊娠や中絶、避妊や生理をめぐる問題がリアルに描かれていること。
「中絶という体験には何か神話化された側面がありますよね。ドアの向こうで人知れず恐ろしいことが起こっている、そんなミステリー的な描写には絶対にしたくなかったんです。私が実際に経験して気づいたのは、これまでテレビなどで描かれていた描写が間違いだらけだということ。経口剤による中絶が可能で、医師から薬を処方された後は自分の家で飲めばいいことも、以前は全く知りませんでした。劇中では、薬を飲んだ後に出血が続きブリジットが不安や混乱を覚える描写がありますが、これは見る人にショックを与えるためではありません。中絶をすると実際にどんなことが起こるのかをきちんと見せたかったからです」
日本では未だに経口中絶薬が承認されず(審査中)、手術にも配偶者の同意が必要とされる。アメリカでも昨今、中絶の権利をめぐる問題は大きな議論を呼んでいる。
「自分の体は自分がコントロールして然るべき。アメリカでも中絶は個人の問題ではなく政治の話題として扱われる大きな出来事ですが、だからこそ私は、大きな題材を細かい粒子にして映画の中に染み込ませようと考えました。それはここで描いた生理や産後うつに関しても同じ。個人の視点で描くほど人はより身近な距離で共感を持てるはずだから。私自身の経験を描くことで、この映画を見た人たちが何か前向きな方向に進んでくれればと願っています」
Kelly O'Sullivan/1984年生まれ。俳優として多くの舞台に立ち、TVドラマ「Sirens」や映画『Henry Gamble's Birthday Party』などに出演。本作が初の長編映画脚本となる。
INFORMATION
映画『セイント・フランシス』
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