1ページ目から読む
2/4ページ目

「試合で劣勢になるとはいえ、私から幕を引くわけにいかない」

「9分9厘、出場は難しい」と「辞退」の2文字が脳裏をよぎり、責任教師とコーチの2人に相談した。そうした思いを遮ったのが、ベンチ入りした4番を打つキャプテンの伊藤颯希、河合福治、投手の古賀暖人の3人の3年生の顔だった。

「彼らはコロナで苦労に苦労を重ねてきた3年生。試合になれば劣勢になることがわかっているとはいえ、私から幕を引くわけにはいかない」

 そう思い直し、3年生は伊藤ら3人、2年生11人、1年生4人という下級生中心のメンバー構成にして仕切り直して試合の出場を目指すことを決意。

ADVERTISEMENT

 直後、日本高野連が「感染予防ガイドライン」を一部訂正した。これにより、試合前72時間以内に当該チームの登録選手ら全員の陰性が確認された場合、試合の出場を認めるとした。さらに感染拡大防止措置が講じられていることが認められた場合、一部の登録選手を入れ替え、試合前の72時間以内の陰性確認ができた結果、県立岐阜商業は甲子園での試合を迎えることができたのだ。

社に敗れた県岐阜商 ©共同通信

 だが、チームとしての練習はわずかに2日だけ。全国有数の激戦区である兵庫予選を勝ち抜いた社は、県立岐阜商業に生じた綻びを見逃さずに攻め抜いた。

 一方で県立岐阜商業にとって収穫もあった。急遽登録された、ともに2年生の高橋一瑛の強烈なスイング、高井咲来の的確なミート力は、新チーム以降の期待を膨らませるに値するものだった。「悔しさを持ち帰って、次につなげてくれるはず」という鍛治舎の言葉から、新チームの青写真が描けたことが想像できる。チームとして、来春はベストメンバーを揃えて再び聖地に戻って戦ってほしい。

入学式が行われず、5月まではまともに授業さえ行われない状況

 2年前の2020年4月、新型コロナウイルスの蔓延によって緊急事態宣言が発令された影響もあり、県立岐阜商業は例年通りに入学式が行われず、5月まではまともに授業さえ行われない状況だった。第102回全国高等学校野球選手権が中止となり、あまりの無常さに抗うことすらできない先輩たちの姿を、今年の3年生たちは見てきた。この年の夏以降も満足に練習試合さえ行えず、普段の練習も時間制限を設けて行われるのが当然となっていた学校も多い。