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 サツキとメイが2階に上がっていくと、そこにいたススワタリは一斉に逃げ出そうとする。サツキが窓を開けようとしている間、メイは彼らが壁の亀裂に逃げ込む瞬間を見逃さなかった。

 そしてメイは、その亀裂に指を差し込む。その瞬間、亀裂から猛烈に吹き出して天井の片隅へと逃げ出すススワタリたち。

 

 ここで「触覚」による実在感の表現と、音の演出による「聴覚」への刺激が合体したことで、『となりのトトロ』という作品が持つ「手で触れられる実在感がありながら、不思議な雰囲気をまとっている」というトーンがはっきりと観客に伝わることになる。

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メイとサツキ、ふたりの「トトロの出会い」

 

 その後、親子3人で入院している母をお見舞いにいく展開(ここでも母がサツキの髪をとかしてあげるというスキンシップ=触覚が大きな意味を持って描かれている)を挟んで、メイとトトロの邂逅が描かれることになる。

 メイとトトロの邂逅でも、当然ながら「触覚」が大きな役割を果たす。

 中トトロと小トトロを追いかけて、大きなクスノキのウロに落ちてしまったメイ。そこでメイは寝ている大きな毛むくじゃらの生きもの――トトロを見つける。

 

 まず尻尾を触るメイ。メイに触られた尻尾は様々に動き、メイはその尻尾に抱きついてしまう。するとそのままトトロが寝返りをうち、メイは流れでトトロの大きなお腹に乗ることになる。

 トトロの毛並みと呼吸に合わせて上下するお腹が、メイが感じているだろう体温感を観客にも伝える。さらにメイはトトロの鼻をなでてくしゃみをさせたりもする。

 こうして、引っ越してきた家を「手」で確認したように、メイはその触覚でトトロを認識していく。こうして観客は触覚のリアリティの先にトトロの実在を身体的に実感するのである。

 そして、この時メイが、叫び声ともあくびともつかない声を聞いて「トトロ」と命名するのも、本作らしい聴覚の使い方といえる。

 

 触覚が中心のメイとトトロの出会いに対し、サツキとトトロの出会いは聴覚が大きな働きをする。

 大学からの帰りが遅い父を迎えに、雨の中、バス停まで出向いたサツキとメイ。しかし父はなかなか帰ってこず、日はやがて暮れていく。疲れて眠くなったメイをおんぶするサツキ。そこにひたひたという足音が聞こえてくる。トトロがやってきたのだ。

 この時、トトロは頭の上に葉っぱを乗せ、そこから滴る水滴が鼻の頭で雨音を立てている。サツキがトトロに傘を貸してあげると、トトロは傘に落ちる雨だれの音に喜びの表情を見せる。