世の中には、人々から年齢の指標にされがちな職業や社会的地位というのがある。たとえば、甲子園球児や大相撲の力士が自分より年下だと気づいた瞬間、年を取ったと感じた人は少なくないはずだ。もっと年齢が上がれば、政治家なんかもその指標となったりする。

 あるいは、NHKの朝ドラのファンであれば、ヒロインの母親役の俳優が年下になったとき、しみじみ感慨を抱くのではないか。1976年生まれの筆者の場合、1歳下の菅野美穂が『べっぴんさん』(2016~17年)でヒロインの母親を演じたときがそうだった。

菅野美穂 ©Getty

 ちなみに放送当時、菅野は39歳になっていた。彼女自身、18歳のときに朝ドラ『走らんか!』(1995~96年)で広く世に知られるようになっただけに、『べっぴんさん』出演に際してはあれから約20年も経ったのかと驚いたという。当時の女性誌でのインタビューでは《その18歳がいまや結婚し出産を経て、母親役をいただいて。人生の折り返しを迎えたというにはまだ未熟ですが、感慨深くなりました。この先も仕事も家庭も頑張るしかないなと。重ねた時間を大切に、新しい自分にもワクワク。体力勝負にもなりそうです(笑)》と語っている(『LEE』2016年10月号)。

ADVERTISEMENT

一番遠いところにあったヌード撮影

 その菅野はきょう8月22日が誕生日で、45歳となった。上に引用した記事には「30代で経験した10のコト」というタイトルがついていた。ようするに彼女が30代で経験したことを、読者のお手本にしてもらおうという趣旨の企画である。女性誌はそれぞれ読者層を特定の年代に設定しているだけに、この手の企画は多いが、そのなかでも菅野は登場する機会が目立つ。そこにはそれなりに理由があるのだろう。たしかに過去の彼女の発言をひもとくと、ある年代を振り返り、そこに意味を見出していることも多い。

 1998年、21歳のときに刊行したフォトエッセイ集『定本 菅野美穂 Exorcism』(集英社)では、19歳のころを振り返っていた。それによれば、10代が終わるのを前に彼女は、自分を見失いかけ、不安定で、どうすればよいのかわからなくなっていた。何をしていいのかわからなかったら、一番自分がやりたくないことをやってみれば、世界が変わるかもしれない。そう思って、自分から一番遠いところにあったヌードでの撮影をしてみようと考えたのだという。こうして20歳の誕生日に自費出版したのが、写真集『NUDITY』(宮澤正明撮影)であった。