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「都会生まれの “ふるさと”を描く」『耳をすませば』が“ただの中学生の恋愛物語ではない”理由

「都会生まれの “ふるさと”を描く」『耳をすませば』が“ただの中学生の恋愛物語ではない”理由

2022/08/26
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 1995年に公開された『耳をすませば』はジブリ映画の中でも唯一無二の傑作である。

 オープニング、オリビア・ニュートン=ジョン(2022年8月8日に死去)が歌う『カントリー・ロード』から始まり、定点で行き交う人々を描きながら本名陽子が歌う日本語訳の『カントリー・ロード』が流れるエンドロールまで、映画の始まりから終わりまでがパーフェクトな映画なのだ。エンドロールはぜひ最後まで見てほしい。『カントリー・ロード』の歌を聞くだけで目頭が熱くなる人も多いのではないだろうか。

 

 柊あおいの少女漫画を原作とした本作は、大枠では中学生の日常と恋模様を描いた作品ではあるものの、十代の若者の恋の“その先”を描くことにより、恋愛成就がゴールである凡百のラブストーリーとは一線を画す作品である。

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 また、大人にとっての『耳をすませば』は、甘酸っぱい思い出やノスタルジックな感傷もさることながら、心の奥底にしまい込んでいた“夢を持っていた頃の自分”が本作によって引きずり出され、えも言われぬ「悔恨」の情に身も心も包まれるといった副反応も持ち合わせている。

 

「都会生まれの人間にとっての“ふるさと”を描く」

 そんな『耳をすませば』は、1995年に公開され、同年の興行収入としては31.5億円を記録。同年の邦画の中ではナンバーワンのヒットとなった。

「都会生まれの人間にとっての“ふるさと”を描く」として企画された本作は、丁寧に描かれた10代の若者の心の機微だけでなく、徹底した生活風景のリアリティーも特徴である。

 主人公の月島雫が住む公団住宅、姉と共用の二段ベッド、夜のコンビニや住宅地と電信柱、そして丘陵地帯の高所感など、多摩丘陵と京王線の聖蹟桜ヶ丘を参考に描かれた作中の情景は、まるでリアルに地続きな世界であると感じられる。聖蹟桜ヶ丘や多摩丘陵へと「聖地巡礼」するファンが多いのも肯ける。