飛ぶのは女性客だけではない。客の残した「掛け」は個々の担当ホストが店に対して被る借金になるため、時には数千万の負債を抱えたホストが、失踪したり、出勤してこないため、部屋を訪れると中で首をつっていたという話を聞いたこともある。
僕がまだ雑誌カメラマンをしていた頃に、SMの女王様のような恰好でホストを専門に撮っている女性カメラマンがメディアにたびたび登場していた。彼女の名は綾瀬凛さんという。
凛さんは今でも歌舞伎町にスタジオを構えホストやファッションなどの撮影を行っている。
ホストの撮影はスタジオばかりでなく、店に赴き撮影することもある。
その日もアシスタントの男の子を連れて、ホスト街の真ん中にある、とある店舗での撮影を無事終了させた。
「わ、わ、わぁっ」
その店は雑居ビルの4階にあった。エレベーターは狭く、人が3人も乗ればいっぱいになるようなものだった。
機材は多く、一度に載せるのは無理そうだった。来たときと同じように、2~3回に分けて載せなければならない。
彼女はアシスタントに指示した。
「1回先に行って下まで降ろしといて」
アシスタントは指示に従い、店から出て共用の廊下にあるエレベーター前まで荷物を運んだようだった。
彼女は店内で残った機材をケースに仕舞っていた。
機材がもう1便運べる状態になったので、彼女は自分でエレベーター前まで運んだ。すると、だいぶ前に下に降りたはずのアシスタントが、まだエレベーターの前に突っ立っていた。
「まだ来ないのかよ」
彼女はそう言いながら、開閉扉の上の階数を示す電光表示を見た。
するとエレベーターはすでに4階に来て止まっているようだった。
「何やってんだよ!」
彼女は声を荒げてエレベーターの乗り場ボタンの下向きの矢印を押した。
すると扉は静かに開き、空っぽの室内が見えた。するとアシスタントは「わ、わ、わぁっ」と大げさに声をあげた。