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二人の恋の悲しい結末
これは『古事記』の伝える話で、『日本書紀』では軽大娘が伊予国へ流され、木梨軽皇子は弟穴穂皇子(のちの安康(あんこう)天皇)の軍勢に囲まれ、自害するという結末になります。
いずれも悲しい結末ではありますが、物語として心を揺さぶられるのは圧倒的に『古事記』の方でしょう。
その二人の自決の場面で、木梨軽皇子が最期に詠んだ歌は長歌なのですが、軽大娘に対し、「真玉(またま)なす吾(あ)が思(も)ふ妹(いも)」「鏡なす吾が思ふ妻」──玉のように大切な私の愛しい人、鏡のように美しい私の愛しい妻と呼びかけます。
「愛しいひとがいるのであれば、大和の家に帰ろうとも思うし、故郷を懐かしく思いもするだろう、しかし、今、お前は私のそばにいる、もはや故郷に帰ろうとは思わない」
そう詠んで、木梨軽皇子は命を絶ちました。
皇位を擲(なげう)った皇子にとって、故郷とは、すべてを捨てて自分に逢いに来てくれる愛しい妹に他ならなかった、ということなのでしょう。
装画 睦月ムンク